総括医長 安達 聡介
新潟市医師会の皆様におかれましては、益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。また平素は格別のご高配を賜わり、厚くお礼申し上げます。
産科婦人科学教室の近況につきまして診療・研究・教育等の各々についてご報告させていただきます。
産科婦人科は、大きくわけて、婦人科・産科・生殖・女性ヘルスケアの4分野の診療を行っています。
婦人科分野では、悪性疾患(子宮頸癌・子宮体癌・卵巣癌・外陰癌・子宮肉腫など)に対しては手術・化学療法・放射線療法・分子標的薬などを集学的に駆使して、根治性の向上とQOLの改善を目指し、放射線科、外科系各科、麻酔科、腫瘍内科や病理部など、関係各科からお力添えをいただき、診療を行っています。子宮頸癌における妊孕能温存手術としての広汎子宮頸部切除術は、広く県内外より多数の症例をご紹介して頂いております。中でも妊娠中における広汎子宮頸部切除術においては、いずれも生児獲得の帰結となっており、国内で最多となる施行実績を着実に積み上げているところです。また子宮体癌に対しては腹腔鏡下子宮体癌根治手術のみならず、ロボット支援下手術への取り組みも開始しております。良性疾患(子宮筋腫・子宮内膜症・良性卵巣腫瘍など)に対しても手術侵襲の少ない腹腔鏡下手術を積極的に行っています。骨盤臓器脱に対しては保存的治療から手術療法(腹腔鏡下仙骨腟固定術など)まで、病態に応じた治療を選択しています。昨今話題となっている遺伝性乳癌・卵巣癌(HBOC)に対しては、当院消化器・一般外科および県立がんセンター新潟病院と連携しながら臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラー立ち会いのもと遺伝カウンセリングを行い、遺伝子検査や定期検診を含めた情報提供を行っております。また隔週で婦人科病理検討会を開催し、病理診断の困難な症例についての検討を行っています。
産科分野では、妊娠中の胎児異常に関して精査する胎児スクリーニングエコー外来や胎児心エコー外来などの更なる充実を図りつつ、新生児集中治療室(NICU)・小児科・小児外科・手術部・麻酔科のご協力のもと、積極的に合併症妊娠・母体搬送・新生児搬送等のハイリスク疾患管理にあたっております。胎児スクリーニングエコー外来は完全予約制としており、限られた時間で診断から今後の方針説明までを行うために、ご紹介いただく際には事前にFAXにて診療情報をご提供いただいています。ご協力のほど宜しくお願い申し上げます。産科遺伝外来および、母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)外来についても、多くの患者様をご紹介していただいております。限られた予約枠ではありますが、より充実した遺伝カウンセリングを提供できるようさらなる体制整備を行っていく所存です。
生殖分野では、不妊・内分泌と不育症の診療をしています。不妊・内分泌は、人工授精、体外受精・胚移植、顕微授精、凍結胚移植などの生殖補助医療技術を提供しております。また非閉塞性無精子症患者に対する顕微鏡下精巣生検(MD-TESE)にも取り組んでいます。がん生殖外来を開設しており、若年がん発症患者様の妊孕性温存に力を入れています。「不妊専門相談センター」では電話やE-mailでの相談も受け付けております。不育は、妊娠はするものの流産や死産をくり返す「不育症」患者様の診療を行っています。原因を検索し、免疫療法等の治療をすすめております。
女性ヘルスケア分野では、思春期・性成熟期・更年期・老年期の生涯にわたる女性のヘルスケアを担うために、各時期に特有の病態に対して主として予防的観点から適切な検査・治療を実施しています。
研究面では、以下のグループで研究を進めております。
(1)婦人科研究グループ
HPVワクチンに関する疫学研究、卵巣がんのがん幹細胞の同定とin vitro 培養系の確立及び臨床応用、ゲノム異常に注目した子宮内膜症の病態解明に関する研究、正常子宮内膜の3次元構造解析、卵巣癌の相同組換え修復異常に関する研究など。
(2)周産期研究グループ
超早産児の消化管保護に関するトランスレーショナルリサーチ、分娩監視装置の改良に向けた基礎研究、胎児診断・胎内治療、超音波による胎児の生理・病理に関する研究、胎児心臓病に関する研究など。
(3)生殖研究グループ
不育症と同種免疫、各種生殖異常と主要組織適合抗原系、抗リン脂質抗体と習慣流産・妊娠高血圧症候群、無精子症に対する精巣上体・精巣内精子採取術と顕微授精、無精子症の遺伝子発現プロファイルなど。
教育面では、医学部4〜6年生を対象とした臨床実習も、臓器別講義と同様に教室員全員で指導にあたっております。学生さんには各臨床グループにてマンツーマンで指導を行い、新患の予診聴取・分娩見学・手術時の手洗いなど可能な範囲内で積極的に臨床に参加していただいています。各種シミュレータ機器や腹腔鏡ドライボックスを用いた臨床手技実習を取り入れております。また実習中は教授との昼食会を開き、産婦人科の魅力を伝え、また学生さんとのコミュニケーションをより密とするような貴重な機会を設けております。
平成27年から30年までの4年間、JICA、国立六大学(いわゆる旧六医専)、ミャンマー保健省の連携による、基礎医学分野・臨床医学分野における現地医療人育成プロジェクトの産婦人科領域主管校を当科が担当し、年間2人のミャンマー人医師を受け入れ医学教育支援を行いました。また、国立研究開発法人国立国際医療研究センターが公募する医療技術等国際展開推進事業において、令和元年度から当教室が研修実施機関として採択されました(事業名:ミャンマーにおける周産期領域の超音波診断技術強化事業)。今後最長3年間にわたり同様の教育支援をミャンマー人医師に行って参ります。
令和元年7月には、第61回日本婦人科腫瘍学会学術講演会を新潟で開催し、ご参加いただいた2,000人を超える国内外の多くの皆様のお陰で盛会のうちに終えることができました。また令和3年4月には、第73回日本産科婦人科学会学術講演会を新潟市で開催することが決定しております。本会の新潟市での開催は、昭和55年以来となります。教室員一丸となり、鋭意運営準備をすすめております。
主任教授である榎本隆之は趣味のピアノ演奏を活かし、定期的に新潟大学医歯学総合病院の院内コンサートを開催しています。演奏者は国内外で活躍される方から患者さん・学生さん・医師まで様々で、ご参加いただいた皆様からはお陰さまでご好評をいただいております。
今後も新潟県内の産婦人科医療体制を充実、そして発展させるべく、教室員一同取り組んで参りたいと思っております。新潟市医師会の皆様には引き続きご指導ご鞭撻のほど、何卒宜しくお願い申し上げます。