穂苅 環
「え!お母さん出るの?やめてよ、頼むから」と息子に言われても、のど自慢に応募した。少しも上手くないのだが、カラオケはお腹から声を出すとストレス発散、心肺機能向上、認知症予防にもなる。2年前、柏崎でのNHKのど自慢予選大会に申し込んだが出場叶わず、いつかはと、夢見ていたのだが…カラオケ好きな患者様から「先生、今度新潟市開港150周年事業で募集ありますよ」と伺い、速攻で往復はがきを投函した。返信を待つこと1か月。やった!応募は3,000組ほどだったらしいが、念願の予選会に出られることになった(250組)。ゲストは小林幸子さん。
「往診するグループホームの入居者様が、私を小林幸子さんと思っています」と記入したので、衣装は決まっている。白衣、首には聴診器。ユーチューブで何度も本人の歌を聴き、通勤の車内で自主練習を重ねた。カラオケスナックのステージで2度歌ったが、上達する気配はなかった。
土曜11時45分から予選会だったので、クリニックを休診にし、朝から気もそぞろだった。会場の新潟テルサに入ると出場者、応援の人々、観客でごった返していた。ああ緊張する。題名の「あいうえお順」で予選が開始され、私の出番は3時半過ぎ。『雪椿』を歌うのは5組もいて、1番の激戦曲だった。夢は同じか?舞台の上で小林幸子さんとハグしたい。
脇で待機している時間は人生最大の緊張、絶体絶命のピンチ。私より若い女性2人が軽やかに声量豊かに歌い、もうダメだなーと思ったら、案外気楽に歌えた。次の男性は着物姿、高いキーで見事に歌い上げた。声も幸子さんに一番似ていて、どうやら民謡をやっているらしい。最後の1組はなぜかフラダンス姿の4人組。結果は2時間後に発表され、67才の着流し男性が見事に選ばれた。
さて翌日曜は生放送。テレビの前に釘付けで、我が身のように心ときめかせ、声援を送った。学会発表等では味わったことのない冷や汗、動悸、高揚感は、61才のお婆ちゃんにアンチ加齢・デトックス効果があったかもしれない。