浅井 忍
上京することになり、バードランドに電話をかけたのが10日前だった。電話の向こうで男性店員が「んー」としばし間をおいた後、「7時からなら、カウンター2名様、ご用意できます」と応えた。バードランドは『ミシュラン東京』で、2010年以来、連続1つ星に輝く焼き鳥屋である。昨年、1つ星のラーメン店が、予想を上回る数の客が押しかけたために、近所に迷惑がかかるという理由で閉店を余儀なくされた。1つ星の店のそんな事情からすると、予約が取れたのは渉外担当の妻の大手柄であった。
かつて、口コミサイト『食べログ』の広報担当者が、星が3.5以上なら間違いなく旨い店であるとテレビで言っていた。ちなみにバードランドは3.68である。『食べログ』の評価は、若い人が集まる店は点数が高く老舗店や高級店は点数が低い傾向があるが、おおかたは信用できると思っている。
予約を取った翌日に、BS朝日放送の『オトナの社会見学』で、たまたまバードランドが取り上げられていた。店主は学生時代に焼き鳥屋のアルバイトをして、売り上げを倍にした実績があった。店を活気があり居心地よくすることが、繁盛の極意であると店主は述べていた。店主がこだわるのは、茨城産の奥久慈しゃもを丸ごと仕入れ、店で解体して仕込みをすることである。焼き鳥屋の修行は「串打ち3年、焼き一生」と大袈裟に言われるが、焼き鳥をうまく焼くコツは、串に刺す肉塊を一定の重さにすることだという。そうすると焼きムラがなく焼けるそうだ。バードランドでは肉塊の重さをその都度電子秤で計っている。
道に迷ってやっとの思いで、地下鉄への入り口を下りた階にある店にたどり着いた。広い店内は活気で溢れていた。調理場をコの字型に囲む22のカウンター席と、およそ10のテーブル席があり、カウンター席に案内された。おしぼりを手にするや、とりあえず生ビールだ。ふたつあるコースのうち品数の多い方を選んだ。前菜の盛り合わせは、砂肝の煮凝り、鴨の皮の二倍酢、ウルイのぬた、菜の花のおひたしの4品であった。ビールが進むラインナップだ。そのあと、ササミ焼きの梅ソースまたはバジルソース、そしてパテと焼いたフランスパンが出た。焼き鳥屋のコースに、最近よくお目にかかるパテとフランスパンの組み合わせだが、この店がオリジナルだという。串7本が次々に登場して、途中で口直しのおぼろ豆腐、ベビーリーフとトマトの生野菜、さらに絶品のカチョカバロのチーズ焼きが出た。そして、薄味の親子丼にスープとデザートがコースの最後だった。とうに満腹を通り越していたものの、壁に1枚だけ貼ってあるメニューの、鴨と下仁田ネギ焼きを追加した。
アルコールは、ビールの次に白ワインそのあとに赤ワインと進んだ。ワイングラスに太っ腹な量のワインが注がれて出てくる。お代わりのたびに量が少し違うのは愛嬌というものだろう。
遅延することもだぶつくこともなく、絶妙のタイミングで料理が出てくるのは、10名ほどの従業員に対して、恰幅のいい店主が絶えず細かい指示を出しているからだ。学生時代に会得した焼き鳥屋の繁盛の極意が生きている。
バードランドの隣には、すきやばし次郎が店を構えている。
バードランド
住所 | 東京都中央区銀座4丁目2-15 |
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電話 | 03-5250-1081 |
定休日 | 日祝・月 |