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患者のための再生医療
新潟手の外科研究所成
澤 弘子
本書は著者が主催する再生医療の研究会で求めた一般書でも専門書でもない、少々難解な本でした。著者は京都大学工学部で線維やプラスチック素材を研究していた方です。細い人工血管の開発が行き詰まっていたときに運命の論文に出会い再生医療の研究に転向したとのことです。
再生医療というとすぐにES細胞の話題がうかんできますが分化の問題など未解決なことが多くES細胞が再生医療に応用できる見通しは遠く、論文は書けるが当分患者のための再生医療にはなりそうにないと著者は却下しています。ここでは臨床に応用されているか、そろそろ応用できそうな再生医療が紹介されています。
さて著者が出会った運命の論文とは1988年に発表された、生体吸収性高分子をマトリックス素材としてそこに肝細胞などの実質細胞浮遊液を播種し培養後、動物の体内に埋め込むと足場に血管新生が認められ肝細胞の生着が起る、というものです。足場高分子だけのものにも血管新生と炎症反応がおこるので細胞は重要ではないとのこと。しかし今もって実質細胞から器官を再生するのは困難のようです。骨や軟骨などの支持組織の再生は比較的容易で、1989年に大阪大学からコラーゲンゲルに包み込んだ他家軟骨細胞によるウサギ関節表面の修復が発表されました。皮膚についてはすでに1981年に表皮細胞と線維芽細胞を用いた全層皮膚欠損の修復が報告され治療例もあるとのことでした。そういえば広範囲熱傷患者の治療に培養表皮が使えるという話はあったようですが今や標準なのでしょうか。
次に用語の問題について、この本の題名は再生医療となっていますが著者の述べたい研究は実はティッシューエンジニアリングなのです。つまり足場と細胞を混ぜて体内に埋め込み組織を再生させることです。これを単に組織工学とすると一般には生体組織とみなされず、やむをえず再生医療にしたとか。カタカナ言葉を多用するのは良くないと思いますが医療関係者以外にもこの単語の意味を正確に伝えられる短い日本語となると確かにみつかりません。また再生医療イコールES細胞としているマスメディアの偏見がさらに言葉の定義を混乱させているようです。本書によれば再生医療はregenerativemedicine、足場不要の再生医療が細胞療法(細胞浮遊液を体内に注入するだけで治療できる方法)。足場必要な再生医療がティッシューエンジニアリングということになります。
本書ではさまざまな領域のティッシューエンジニアリングの前臨床研究と人への応用が紹介されていますが整形分野以外は難解でした。しかし規制強化の現実とコストなどビジネス化するための問題点、認可を与える厚生労働省の問題点などもとりあげられており再生医療の現状と展望が詳しく述べられています。人工物移植、他家移植、自家移植をしなくても欠損組織を修復できるようになることは外科系医師と患者の夢と希望です。患者のための再生医療の実現は遠いのか近いのか。
患者のための再生医療
| 著者 | 筏 義人 |
|---|---|
| 出版社 |
米田出版 産業図書 |
| 定価 |
1,800円+税 |