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国家の品格

前田 裕伸

著者藤原正彦氏を知ったのは、昭和52年エッセイストクラブ賞を受賞した「若き数学者のアメリカ」という作品を読んだのが最初である。20歳台の若い数学者であった氏が、ミシガン大学・コロラド大学での研究生活の中で感じた焦燥、孤独、不安を記述している。数学者といえば、合理性や論理性の中で生きているものと思って読み始めたのであるが、その知性と情感の豊かさ、そして爽やかな文脈に圧倒されたのである。氏が作家新田次郎と藤原ていの次男であることを知ったのは、後になってからのことである。

今回の著書では、論理性・合理性は大切であるけれども、それだけでは世界は破綻すると述べている。現代における市場原理主義や金銭至上主義という論理は、欧米における歴史的合理性の流れの中で必然的に発生し、しかも世界的支配スキームを作り上げてしまっている。こうした欧米を中心とした一方的な論理の結果が、下品で卑怯なまでのマネーゲームや市場戦争をひきおこしている。確かに論理は大切である。しかし論理には、自ずと限界があり、論理ではどうしても証明できない重要なことがたくさんある、と数学者らしい見識を述べている。さらに正しい論理には正しい出発点となる情緒や伝統的な形が必要である、としている。

本来、日本人はすばらしい情緒をもつ民族である。日本の桜や紅葉といった自然、庭園、華道、茶道、書道、俳句、そして世界に類を見ない数多くの文学作品が、それを裏付けている。さらに武士道精神を背景とした行動規範を形として持つ民族のはずである。今こそ、すばらしい情緒と形をもつ日本人に誇りをもち、欧米を中心に拡大を続けてきたグローバリズムを何とも思わない野卑な国々とは一線を画す必要がある。日本人1人1人が、美しい情緒と形を思い起こすことが「品格ある国家」を再生させる出発点となるであろうし、それが日本人の責務であると述べている。

論理を大切にし、論理の中で生きていると考えられる数学者の著者が、論理の出発点は情緒や形であるとしている点がおもしろく、さらに文脈のあちこちに「若き数学者のアメリカ」の息遣い、ユーモア、反骨精神の健在ぶりが垣間見えて勇気づけられる著書でしたので、紹介いたしました。

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国家の品格

著者  藤原正彦
発行日
2005年11月20日
出版社
新潮新書
定価
本体680円+税

 

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