ホーム > 新潟市医師会会報より > マイライブラリー >
ソロモンの指環 動物行動学入門
黒田 兼
「あぁっ、押し込みすぎっ!そんなんじゃ、うまく食べられないでしょ」(妻。医師。高校時代生物部)
「えっ、そうなの?」(長男。小学生)
「うえっ、鳥肉っ。バッタじゃないの?。失礼しちゃうわね」(カマキリ。多分メス。出身地泰平橋下)
「ドドドドドドドドドドドドッ」(ラブラドールレトリバー。オス。1歳6ヶ月)
「カサカサ、カサカサ」(オカヤドカリたち。性別・年齢不詳)
我が家のある日の夕食後のリビングルーム。犬を遊ばせるため、週末になると車で30分程の阿賀野川の河川敷によく出かける。そこで長男が捕まえたカマキリ。捕まえたはいいが、一緒に捕まえてきた生餌のバッタが4~5日で底をつき餌に困った。みんなで図鑑を調べると鶏の胸肉がいいと書いてある。「ピンセットの先等でつまんでそっとカマキリの口元に近づけると食べます」と。人生経験の浅い長男は、割り箸の先の肉をギュウギュウ、カマキリの口に当てている。それを見た元生物部員の指導が入る。そのそばを興奮した体重28kgの犬がフローリングの床を蹴って駆け抜け、部屋の片隅では長男が2年以上前から世話をしているオカヤドカリが飼育ケースの中で動き回っている。私はふと考える。「いつからこんなになってしまったのだろう・・・」
皆さんは現在、あるいは過去に生き物を飼った経験をお持ちでしょうか。私はそれまで何かを飼育した経験がほとんどありませんでした。我が家に昨年6月、ラブラドールレトリバーという犬がやってきました。それからというもの、学会誌は読まなくても犬の雑誌は定期購読し、講演会には参加しなくても犬の訓練を週1回のペースで受け、なんとか育てているという状態です。訓練士さんに初めの頃から「犬の表情・仕草・体の様子をよく観察してください」と言われてきました。以前は全くわからなかった犬の感情がある程度わかってきたような気がします。一般的にわかりやすいのは、しっぽの振り方や耳の動き。さらに、たいした表情筋があるとも思えない顔面でも、若干の変化があるようですし、つぶさに観察すると背中の毛並みが興奮度合いにより、逆立つのもわかります。訓練士さんの御指導もあり(実は犬を扱う上でのテクニック・理論を飼い主に....教える訓練なのですが)現在はある程度しつけのできた(?)犬になっています。家族の心を和ませる存在です。さて、カマキリはどうでしょう。散歩不要、ウンチも少量。まあ手間いらずの部類だと思われます。長男は虫かごの中を見て「かわいぃ」と嬉しそうに眺めていますが、皆がかわいいと思うものでしょうか?
オカヤドカリというのは陸に住むヤドカリで、日本では沖縄に生息しています。リンゴを食べているところなどを見ると、目が大きくて(複眼のためか?)かわいいという意見もあります。しかし絶対「お手」はしません。ちょっと前、日和浜からヤドカリを取ってきました。(もちろん採取者は元生物部の妻)こいつは上のほうから餌をやろうとすると、ちょうだい、ちょうだいと言わんばかりにはさみをえさに向かって伸ばします。
そんな、生き物を日々身近に観察する生活の中、この本に出会いました。この本の著者コンラート・ローレンツは、動物行動学という領域を開拓した功績から1973年ノーベル生理学医学賞を受賞した、有名な「刷り込み理論」の提唱者です。ガンなど鳥類の一種が、孵化して最初に動いたものを母として認識することは、今では誰もが知っていることです。そこにはこんなローレンツ博士の研究(・・・というよりは、ただその生き物が好きで、純粋な興味により行われた観察)があったことを、この本を読む以前私は全く知りませんでした。博士はハイイロガンやコクマルガラス等を家族として、友として見つめています。
彼はこの本でさまざまな動物について記述しています。ユーモアを含んだ細やかな描写は、あたかもその動物たちが目の前で飛んだり、跳ねたりしている様です。
最近では愛好者も増え、一般的になったアクアリウムを博士は特に読者にすすめています。ガラス鉢と一握りの砂、水、水草、そして小さな魚数匹。もっともシンプルなアクアリウムの始まりです。トウギョやトゲウオ、南アメリカ産の大型宝石魚まで、水の中の世界に心動かされる方は是非この本を手にとって見てください。もちろんイヌ・ネコなど見慣れた動物のお話も書いてありますし、これから動物を飼ってみようかな、と考えている方のためには、「なにを飼ったらいいか!」という一章も用意されています。学問としての動物行動学という観点からは、現在では考え方が変わってしまった記述もあるようです(邦訳の初版が出てから40年以上も経っていますから!)。しかし彼の動物たちへの愛情あふれる、生き生きとした表現が、読み手をひきつけます。
とかなんとか、この文章を書いてる数日間のうちにカマキリが卵を産みました。やっぱりメスだったようです。さて、私も彼女(カマキリ)に鶏の胸肉をやりにいくとしますか。
ソロモンの指環 動物行動学入門
| 著者 | コンラート・ローレンツ |
|---|---|
| 訳 | 日高敏隆 |
| 出版社 |
早川書房 |
| 定価 |
本体1,600円+税 |