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『ナチスの発明』
大野 雅弘
真っ赤な色の中に太目の黒色でハーケンクロッツが書かれたこの本に魅かれて読んでみた。
本書はナチス・ドイツでなされた発明、発見について書かれている。その発見や発明は科学の分野、医学の分野、社会制度、社会福祉、交通機関、少子化対策、税金制度、がん対策、などきわめて広い分野にわたり、当時の世界を大きく変えた発明であった。その基本的なものは現代の社会にも十分通じるものであり、その評価も高いものが多い。
例えば、現在、全世界の主要都市を結んでいる高速道路もその考え方やそのモデルの基本はナチスのアウトバーンの原型である。当時、すでに自動車社会を想定しての高速度道路であり、より早く、より効率よく、より安全に人と物を運ぶ手段とした。「ドイツの各都市が同じ規格の道路で結ばれる」「大型車が時速150キロ以上で走行できる高速道路」がアウトバーンのうたい文句であった。アウトバーンは他の道路や鉄道と交差するときは、鉄橋、トンネルなどの立体交差になっている。アウトバーンには長い直線や急カーブはなく、適度なカーブがある。長い直線が続くと事故が起こりやすいという人間工学に基づいて設計された。また、ある距離ごとにサービスエリア、電話や修理工場があり、事故の際の対応や連絡網がすでに完備されていた。ナチス時代のアウトバーンは終戦時には4,000キロになっていた。日本では1963年から作り始め現在まで40年以上かかっても高速道路がやっと6,000キロであることと比較し、アウトバーンはたった10年間で4,000キロを完成したことを考えるとその計画性と実施のスピードに驚嘆せざるを得ない。
また、車社会を想定して、国民車としてのフォルクスワーゲンはドイツの労働者にも買える車をという大衆車構想によって作られた。フォルクスワーゲンの構想の条件は最高時速100キロ、100キロ走るためのガソリン消費は7リットル以下、4~5人が乗れる、空冷式で価格は1,000マルク以下(当時のドイツの労働者の平均月収の9ヶ月の収入で買える)であった。
医学の面を見れば、現代、多大な貢献をしている電子顕微鏡もナチス時代の科学者によって開発された。この顕微鏡を使って人類初めて数多くの病原菌であるウィルスの撮影に成功している。さらにこの顕微鏡を使って石綿症の原因がアスベスト繊維であることを証明し、世界に先駆けて、アスベスト対策を講じるきっかけになった。
現代の航空機はジェット機が主流であるが、そのジェットエンジンもナチス時代の発明であり、世界で初めてジェット機を飛ばした。
今、災害救助などで大いに活躍しているヘリコプターの開発もナチス時代のものである。飛行機にはできない能力、すなわち、垂直に上昇し、垂直に着陸することができ、さらに上空で長時間停止することができるヘリコプターもナチス時代の発明である。
また、北朝鮮のミサイル問題で日本は大騒ぎをしたが、これらのミサイルやロケットを世界で初めて飛ばしたのもナチスであった。報復兵器V2と名づけられたこの兵器はその当時の科学技術のすべてを集めて作られた秘密兵器であった。V2号はマッハ2のスピードで飛んでくる兵器であり、V2の標的になった英国にとっては防御方法がなかった。さらにその飛行距離を伸ばした大陸間弾道弾ミサイルも完成直前までいっていた。戦後はナチスのその技術をもって米国、ソ連の宇宙開発に大きな貢献をしたのである。
空の代表的な乗り物であるジェット機、ヘリコプター、ロケットの3つはすでにナチスが開発したものである。
また、夢の鉄道としてのリニア・モーターカーの研究もその基本技術はすでにナチス時代に開始されていた。通常の車輪による走行では物理学的に400キロ程度が限界とされるが、このリニア・モーターカーの方式ではそれ以上の速度を出すことが可能であり、ナチス時代にはその実用化の一歩手前までいっていた。
現代社会でビジネス、社会生活、日常生活、軍事などに欠かせないものになっているコンピューターもその原型はナチス時代に作られ、世界最初のコンピューターの原型である「Z4」がすでにナチスの時代に開発され、それ以後コンピューターはあらゆる機能を処理可能なものに進化していく。
全国のテレビ放送、ラジオ放送が開始され、さらにテレビ電話、テープレコーダーもナチス時代には実用化されていた。
このような数多くの画期的な発明がナチス時代に完成したが、その2~3つでももう少し早く完成していたり、その使用方法を変えていたら、戦局は大きく変わり、ヒットラーやナチスの運命も大きく違ったと思う。(例えば、原子爆弾の開発やジェットエンジンを戦闘機に配備していたら、輸送用の大型ヘリコプターを開発されていたらなど)
私は子供のころからヒットラーの第3帝国の興亡に強い興味と関心を抱いてきた。
なぜ、あの優秀なるドイツ民族が第1次大戦の一伍長あがりで過去に浮浪者のような生活をしていた男、ヒットラーが短期間で政権をとることができたのか? なぜあれほどナチスはユダヤ人を嫌い迫害したのか? なぜナチスは短期間でヨーロッパの大半を占領することができたのか? など多くの疑問を持っていた。
ナチスの裏には様々な要因があるが、その中でもナチスの生みの親はベルサイユ条約であり、第1次世界大戦の戦争責任をすべてドイツに帰し、「ドイツを2度と立ち上がれないようにするために」に作られたこの条約はドイツにとって悲惨極めるものであった。ヒットラーはこのベルサイユ条約を一方的に破棄し、さらに再軍備をするという大きな賭けにで、それらが偶然うまくいき、多くの国民の支持を得たのである。
政治が庶民の生活を大きく変える事はまれである。例えば、ある日突然、共産主義体制に変われば、その庶民の生活は大きく変わる可能性がある。ほぼ同じような体制の中で庶民の生活を大きく変えた政治家はヒットラー以外にはないと思う。ヒットラーが政権を取ったナチスの時代から当時のドイツの庶民、労働者の生活は大きく変わった。
すなわち、ヒットラーはドイツの失業者対策としてアウトバーン建設をやり、そのドイツの失業率をほぼ0にし、さらに税制面で、労働者には大減税を施行し、さらに福祉の面を大いに支援した。そのために、一時、天文学的な数字であったドイツのインフレをあっという間に押さえ込むことに成功し、労働者、庶民の生活はみるみるよくなった。
第2次大戦の責任はすべてナチスの責任とし、まさにそのすべては悪魔か鬼のような仕業とされてきた。しかし、ナチスの政策や彼らの所業などを1つ1つ洗いなおしてみると、彼らは決して悪魔ではないことがわかる。悪魔どころか現在にも通じるすばらしい技術であり、政策であった。その先見の目には驚愕する。その時代の強烈な制約の中で、全身全霊を傾けて必死にユートピアを模索していた。悲しいかな、それがかれら「ドイツ・アーリア民族」のためだけのユートピアだったということである。
ナチス・ドイツというのは、巨大な矛盾を持った国だった。世界の最先端の科学技術、充実した福祉制度、社会制度を持つ一方、同調しないものや、他民族、諸外国に対して野蛮で残酷な侵攻、迫害を行った。しかし、この矛盾は世界のあらゆる国、あらゆる民族が潜在的に持っているものではないだろうか。それがもっとも極端な形であれわれたのがナチスなのではないだろうか。
人類がこの矛盾を解消するためには、ナチスが何を思い、何を行ったのか、をもっと冷静に、もっと深く、知る必要があるのではないだろうか。ナチスの時代をただ真っ黒に塗りつぶしてきた歴史観は、そろそろ修正されなければならないのではないかと思う。
「ナチスの発明」は現代社会で使用しているもの大部分が関係し、その福祉政策や税制改革、いろいろな社会制度、少子化対策、がん対策、公害対策などは今の社会でも十分通じるものである。これらのことを考えると、本書は一読の価値は十分あると思う。
『ナチスの発明』
| 著者 | 武田 知弘 |
|---|---|
| 出版社 | 彩図社 |
| 定価 | 本体1,400円+税 |