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『時そばの客は理系だった』
-落語で学ぶ数学-

椎名 真

私は落語は好きだが、いわゆる“通”ではない。新潟に住んでいれば当然生(ナマ)の高座を聞くチャンスは滅多にないし、たまに上京しても寄席に立ち寄る時間を作ることはそう簡単ではない。一時は落語番組を録音、録画していたこともあったが、そのときに聞いてしまうとその後再生してもう一度聞こうと思うことは案外少ないものである。

最近本屋の店頭で本を買うということがめっきり少なくなった。ほとんどネットで購入している。本を探すのも楽だし、ネットで注文すれば、早ければ翌々日、遅くとも1週間以内に自宅に届く。この本は、最近では珍しく本屋で買った新書の1冊である。「時そばの客は理系だった」という落語の本らしくない題名に惹かれて手に取り、レジに向かい、そして私は新幹線の車中の人となった。

著者は数学の先生。「自分のわからないものは最初から存在しないと思っているのは、使えない文系に多いタイプ(本書第4章、落語の中の科学『皿屋敷』より)」の1典型例である私は、数学の先生が落語を論じること自体驚きであったが、協力した落語家のひとりが大学の数学科出身であると知ってさらにびっくりした。

取り上げられた演目は題名となっている超ポピュラーな「時そば」や「寿限無」から私が初めて耳にする「提灯屋」などまで合計26席。これを著者の専門分野である数学や科学の話題に展開しておもしろく読ませてくれる。たとえば「宿屋の富」では確率論を、「かぼちゃや」では元と掛け値から線形計画法に話がおよぶ。感心したのは、科学的のことだけでなく、落語の芸談や著者の宗教、歴史などに関する深い知識に内容が裏打ちされていることであり、さらに最近の社会風潮に対する警鐘もちりばめられていて興味深い。

噺の内容とそこから引き出される話題への展開がやや強引で「千早振る」ばり(?)のところもあるようにも感じられたが、新幹線の新潟-東京間を飽きずに過ごさせてくれた好著であった。

「時そば」の客がなぜ理系?―それはぜひ本書を読んで納得してください。

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『時そばの客は理系だった』
-落語で学ぶ数学-

著者 柳谷 晃
出版社 幻冬舎新書
定価 本体740円+税

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