ホーム > 新潟市医師会会報より > マイライブラリー >

『肝臓よ、甦れ!』

前田 裕伸

著者市田隆文氏は、昭和50年に新潟大学医学部を卒業し、第三内科に在籍していた平成5年10月に末期的状況にあった原発性胆汁性肝硬変の中年女性にたいして、息子さんをドナーとする世界初の成人間生体肝移植を成功させたことで有名である。今や肝移植医療における内科医の第一人者として、大変なご活躍をされている。氏は、新潟大学医学部第三内科初代教授である故市田文弘名誉教授のご子息である。 今回エッセー好きが高じて、これまで書き溜めておいた幼少時代の思い出を含め、これまでの山あり谷ありの人生や、数多くの素晴らしい人々との出会いをまとめて、自分の本を創ってしまったと述べている。

新潟大学医学部を卒業後まもなく、氏は新進消化器内科医として頭角をあらわし、肝細胞癌のカテーテルによる塞栓療法を内科医としては日本で最初に手がけたのである。昭和59年5月、ベルギーのブリュッセル自由大学のヴィッセ教授のもとへ留学した。さらに昭和60年8月には、そのままヨーロッパからアメリカへ飛び、アメリカンヘルスファンデーション・ネーラーダナ癌予防研究所のゲイリー・M・ウィリアムス教授のもとに留学し、得意の電子顕微鏡を駆使して肝組織の研究を続け、数々の論文を掲載したのである。

昭和62年帰国し、新潟大学医学部付属病院第三内科の講師に任命された。当時の日本肝臓学会では、「肝細胞癌の究極の治療は肝移植しかない」との移植積極論が沸騰しており、氏は日本肝移植適応研究会と日本ウイルス肝炎財団からの支援を受け、肝移植の調査研究のため再びアメリカに留学することになった。平成3年11月、アメリカ・ピッツバーグ大学移植研究所へ3度目の留学となった。そこでバンティール内科教授と出会い、肝移植の適応や術後管理の実際について、内科的立場からの具体的かつ克明な指導を受けたのである。また当時、ピッツバーグ大学は臓器移植医療の世界的メッカであり、トーマス・スターツル外科教授のもとには、移植外科医を目指す優秀な人材が世界中から数多く集まっていた。その中に名古屋大学出身の岩月舜三郎教授と九州大学出身の藤堂省准教授がおり、幸運にも公私にわたる交友を結び、内科的・外科的両立場から見た肝移植の実際についても学び取ることができたのである。

半年間の留学後帰国し、再び新潟大学第三内科に戻った氏は、そこですぐに末期的状況を呈している原発性胆汁性肝硬変の中年女性を担当することとなった。種々の検討を重ねるうちに「助かる道は肝移植しかない」と英断した氏は、長野県信州大学病院の外科幕内雅敏教授、川崎誠治准教授、それに松波英寿講師と連絡を取り、具体的な検討に入った。そうこうしているうちにも患者の容態は急変し、一刻の猶予も許されない状況となった。そこで氏は、反対意見もある中で、新潟県警の緊急用ヘリコプターの出動を独断で要請し、かつ自らも同乗し患者を信州大学に搬送したのである。こうして平成5年10月、自ら申し出た息子さんの肝臓をドナーとする世界初の成人間生体肝移植を見事に成功させ、術後15年経った現在も患者は順調な経過をたどっている。

その後平成11年3月には、新潟大学医学部付属病院外科でも生体肝移植が行なわれ、野球部後輩の優秀な外科医佐藤好信氏らとの協力の中で、氏の肝移植内科医としての責任と存在も大きくなり、益々新潟大学医学部での生体肝移植が活発に行なわれるようになった。

平成16年、氏は長らく活躍した新潟大学医学部から順天堂大学医学部付属静岡病院消化器内科教授として移籍することになった。そのとき新潟大学で肝移植を受けた患者さん達が全員で氏の送別会を催し、深い感謝の意を表し、別れを惜しんでくれたとある。

また氏は、NHK文化功労賞を受賞した有名なアルピニストの小野健氏と、最初は医師と患者として出会い、次第に登山の喜びと素晴らしさを教えられ、今では「人生の師」とも思えると述べているのである。小野氏は、富山県の白馬から朝日岳を通り、親不知の海抜0mに至る27kmにもおよぶ栂つが海み新道を開拓したことで有名な方である。その交友の様子がNHKの「小さな旅」という番組で放映されたことが、氏にとっては何よりもうれしかったようである。

このように著者市田隆文氏は、これまで多くの心やさしい師や先輩に出会い、多くの同僚と協力し合い、多くの患者さんにたいしては自ら身を削っても守り抜いてきたという、人間の結び付きを大切に生きてこられた様子が良くわかるのである。この本の中には亡き父と幼い頃の氏との愉快なエピソードや、奥様や息子さんとの愛情あふれるエピソードが、あちこちに輝く星のように上手く散りばめられていて、読者をほっとさせてくれるのである。

今後益々のご活躍を期待しながら、ご紹介申し上げました。

2008_07-2.jpg

『肝臓よ、甦れ!』

著者 市田 隆文
発行日 2008年2月25日
出版社 悠飛社
定価 本体1,600円+税

戻る