ホーム > 新潟市医師会会報より > マイライブラリー >
『ジェイン・オースティンの読書会』
森平 淳子
訳者のあとがきによれば、1冊の本を取り上げてディスカッションする社交サークルのような読書会が、欧米では盛んだとのことである。これは、ジェイン・オースティンの作品の読書会に集まった人達をめぐる物語である。作者ファウラーはこの作品を、①オースティンを一度も読んだことのない人、②昔一度読んだだけの人、③毎年読み返す人、の3種類の読者を想定して、全てを満足させられるよう工夫したと述べている。だが、なんと言ってもこの本を手にするのは圧倒的に③の人だと思う。私もそのひとりである。
ジェイン・オースティンは18~19世紀に生きた英国の作家である。欧米では根強い人気があるようだが、日本では、ほぼ同じ時代の英国女流作家であるブロンテ姉妹よりかなり知名度が低いと思う。私も学生時代は知らず、初めて代表作の「高慢と偏見(自負と偏見)pride and prejudice」を読んだのは20代になってからだった。私はたちまちはまってしまい、それしか読んでないのに、人に好きな作家を聞かれると「ジェイン・オースティン」と答えていた程だ。周りに知っている人は少なかったし、その頃は彼女の他の作品は手に入りにくかったと思う。だが、1995年にBBC で「高慢と偏見」がドラマ化されて評判を呼び、NHK で放映され、また「分別と多感sense and sensibility」(邦題「いつか晴れた日に」)、「エマEmma」が映画化されたりして、10年程前から割と知られるようになったという印象がある。現在は彼女の作品はほぼ全て邦訳が出ている。また「高慢と偏見」は2005年に映画にもなった(邦題「プライドと偏見」)。
BBC の「高慢と偏見」は放映当時英米ではちょっとしたブームで、ダーシー役のコリン・ファースは一時欧米の“ヨン様” であったとか。
「ブリジット・ジョーンズの日記」がこれを下敷きにしていることはよく知られている。また98年の映画「ユー・ガッタ・メール」の中では、トム・ハンクスが「高慢と偏見」好きのメグ・ライアンをからかっていた。
オースティンを偉大な作家と言う気はない。描かれているのは英国の田舎の日常である。全ての作品が結婚で終わるので、確かにあらすじだけを書くとどれも同じようなラブ・ロマンスになってしまう。ある意味で純愛物でもあり、また女性の自立や成長を描いてもいるのだが、独特の皮肉な雰囲気があり、そう単純ではない。鋭い人間観察からくる人物描写が見事で、私は何度読んでも楽しいのだが、結構好き嫌いが分かれるようだ。マーク・トウェインが蛇蝎のごとく嫌っていたのは有名なので、トム・ソーヤーやハックルベリー・フィンが好きな人には向かないかもしれない。「赤毛のアン」が好きな人は多分好きだと思う。ただ私は「ジェイン・エア」も大好きだが、C.ブロンテはオースティンには批判的だったという。
この作品がジェイン・オースティンの入門書としてふさわしいのかどうか分からない。初めて読んだとき、はっきり言って別にジェイン・オースティンは関係ないのではないか、と思った。舞台が現代のアメリカで、登場人物がいかにも現代のアメリカ人ということもある。しかし、オースティンを読み返してから再読してみると、やはりこれはオースティンだな、と思わされる。作者が丹念にオースティンの6長編を読み込んで、時代背景も個々のキャラクターも異なるにも拘らず、オースティン風な物語を展開しているのがよく分かる。オースティンを読んでいた方が断然面白く読めるだろう。
物語の端々に出てくる人物評価や、作者なりの6つの作品の解説を読むと、私とは意見が合わないところが多々あるが、それこそこの物語の冒頭「わたしたちはそれぞれ、自分だけのオースティンを持っている」ということなのだ。私も、私にとってのオースティンについてしみじみと考えてみた。このような読書会があればぜひ私も参加して語り合いたいものだと思う。
『ジェイン・オースティンの読書会』 The Jane Austen Book Club
| 著者 | カレン・ジョイ・ファウラー |
|---|---|
| 訳 | 矢島 尚子 |
| 出版社 | 白水社 |
| 定価 | 2,400円+税 |