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『破れ鼓膜よ、さようなら』

浦野 正美

著者の湯浅 涼先生は、1938年の東京生まれで、東北大学を卒業後、1973年東北労災病院耳鼻咽喉科部長に就任され、中耳炎の手術を数多く手がけてこられました。1993年に同病院を退職された後も、仙台・中耳サージセンターを設立され、70歳になられる現在も精力的に耳の手術を続けておられます。

本書は1988年に湯浅先生が発案し、耳鼻咽喉科領域での低侵襲性手術のさきがけとなった「接着法による鼓膜形成術」の開発経緯や、この手術方法を基礎とした短期入院での鼓室形成術の実際、中耳手術に対する基本的な考え方や姿勢などが解説されています。

一般的に、こうした疾患の説明書は専門用語が多用され難解になりがちですが、本書は平易な言葉で豊富な実例を挙げて記述されていますので、この手術に興味のある医療関係者のみならず、一般の人にもわかりやすい読み物になっています。

本書で紹介されている接着法とは「破れ鼓膜」すなわち、中耳炎などで「鼓膜に穿孔」が生じた症例に対して行われる手術方法です。従来行われていた鼓膜形成術は、耳の後ろを切開して術後に外耳道にパッキングガーゼが必要だったため、数週間の入院を要していましたが、本術式では耳後切開をせずに、外耳道内から手術操作を行い、フィブリン糊を使用して鼓膜を形成するため、日帰り手術が可能になり、まさに革命的手技といえます。

湯浅先生がこの手術を思いついたのは、東北労災病院勤務時代に、実習にきていた医学生が発した、何気ない一言がきっかけだったといいます。それは耳の手術見学中に、鼓膜や耳小骨を形成したあと、特に組織を接着するような処置をしないのを医学生がみて「まるでセメダインを使わないでプラモデルを作るようですね」と言ったことがヒントになったとのことです。つまり、それまでは自然の治癒力にまかせていた術後の創傷治癒機転を、フィブリン糊で移植材料を固定することで、より早期に確実に治癒が図れるのではないかと閃いたことが、この接着法開発の発端だったのです。

湯浅先生は、手術を行う外科系医師の一番の喜びは、自分が行った手術を目標通り達成して無事終え、患者さんが安堵する姿を見る時だと言います。特に感覚器を扱う手術では、術後、患者さん自身が機能の改善を自覚し、その喜びを噛みしめている姿に直に接することができるので、医者冥利につきるそうです。患者さんはこの接着法を受けた瞬間から、音のない世界から一転して周囲の音が聞こえてくるので、その感動は素晴らしいものがあるとのことです。本書の最後の章にはそうした患者さんの生の声がつづられています。

また、本書の内容は医学入門書としても充実しており、鼓膜形成術の生理・解剖学的な解説や術式についても詳細に記載してあるため、これからこの手術習得をめざす若き臨床医にとっても参考になるものと思われます。

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『破れ鼓膜よ、さようなら』

著者 湯浅 涼
出版社 悠飛社
価格 1,600円+税

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