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『異物の国への旅』

安藤 伸朗

これは果たして小説だろうか? 症例報告だ ろうか?

眼科医の岡林哲也は、目の奥に異物があると言い張るひとりの患者と出会うことによって、旅への欲求を強く刺激される─。眼窩奥の痛みに苦しむ患者と、それを診療する医師との、3年に及ぶ奇妙な診療の記録である。全編、日付が付されており症例のカルテを覗き込んでいるような書きようである。随所に眼科的知識や精神科的要素、放射線科的画像診断が詳しく記載されている。医学的興味が刺激され、あっという間に読破してしまった。

診断は最終的にセネストパチー(奇妙な異常体験の執拗な訴えを主症状とする慢性精神疾患)に辿り着く。そこには吉松和哉氏の文献が紹介されている。また妄想についても関忠盛氏の研究が紹介されている。まさに心療眼科入門書である。

実は私もセネストパチーの患者を経験したこ とがある。診療時間に異常体験の執拗な訴えを 30分以上も話し続ける。最初は傾聴が大事だと 思い、予約時間を最後にして、お話を伺ったが止まることがない。当時はセネストパチーの概念も知らず、ギブアップしてしまった。患者A氏の「私の痛みは誰も理解できない」という言葉とエピローグの最後「異物とは、科学と経済に支配されたかに見える現実世界に不条理な形で出現する神話世界の象徴なのかもしれない」が心に残った。患者A氏の結末を知りたいと思い最後まで文字を追ったが、叶わなかった。今なおこの疾患の予後や対処法は謎のままである。岡林医師の根気強い診療態度は参考になった。

プロローグの最初に以下の文章がある。「人は本当に在るかどうかもわからないものを求めて旅立つことがある。それは危険な旅である。、、、、、、幸運にも大過なく時を重ねることができたとしても、求めていた物は見つからず、すべては徒労に終わるかもしれない」ある患者との出会いから心療眼科に目覚めていく眼科医のドキュメントとも、著者である高見沢草介氏自身の生き方とも取れる。

著者である高見沢草介氏に興味が湧いた。文末に高見沢草介(たかみさわ・そうすけ)神奈川県生まれ、慶応義塾大学医学部卒、医学博士。ブログ「眼玉医者のスローライフ日記」と記載があった。早速、ブログを覗いてみた。目は心の窓。フリーター眼科医の目に映ったLOHAS(注)ネタの数々。ゆっくり健康になろう!といかにも高見沢氏らしい記載があった。

患者の心理的側面に興味のある臨床医には、一読をお薦めしたい本である。


(注)LOHAS( ロハス、ローハス) とはLifestyles Of Health And Sustainability(健康と持続可能性のライフスタイル)の略。健康や環境問題に関心の高い人々のライフスタイルを営利活動に結びつけるために生み出されたビジネス用語である。

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『異物の国への旅』

著者 高見沢草介
出版社 作品社
価格 1,200円(税別)

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