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『最前線は蛮族たれ』

川﨑 琢也

少し前の話で恐縮だが、今年は南アフリカでW-CUPが行われた。深夜、テレビの前で手に汗を握って一喜一憂していた方も多いのではなかろうか? かく言う私もその一人である。その第一戦カメルーン戦での本田圭祐のファーストゴールは、その直前3試合の厳しい評価を覆す値千金のゴールだった。サッカーにおいて、得点は何にもまして選手たちを勇気づけ、自信をもたらすのであろう。このゴールがあの時間に決まったことが、日本をベスト16にまで導いたといっても過言ではあるまい。急造のワントップ本田がこの1点をとったのは、岡田武史監督のきわめて優秀な戦略であったと言えよう。しかし、一次予選を通じて本職FWの得点が岡崎慎司の1点のみで、FWの決定力不足が懸念された。やはり決勝リーグ初戦のパラグアイ戦では残念ながら得点できず、0-0のままPK戦で涙を飲んだのだ。このところのサッカー日本代表の決定力不足は、慢性疾患のように見える。そんな現状を打破してくれるのではと期待して私が手に取ったのは、『最フォワード前線は蛮族たれ』であった。

著者の釜本邦茂氏は、日本サッカー史上最高と言われた伝説のストライカーである。1968年メキシコオリンピックでは7得点を挙げ、得点王に輝くと共に、日本代表の銅メダル獲得に大きく貢献した。

彼は言う。『FWは蛮族だ。チームのために自分が生きようとなりふり構わず走り、周囲から突き抜けた存在でいるくらいがちょうどいいのだ。「俺ならできる」という自信に満ち、失敗を恐れず、失敗したとしても「それがどうした?」と平然としていられる。そして、結果を出し、人から認められる。もちろん、協調性もく、好き勝手なことをやる人間のことではない。勝つために言うべきことを言い、その裏付けとなる実力を備えるために自己を究める人間のことだ』と。

その釜本氏の現役時代をふりかえると、どのような蛮族であったのか?

『ストライカーは点を取るのが仕事であって、中盤の選手は最前線にパスを供給するのが仕事だ。僕はフリーの時にパスが出てこなかったら、当然のように「何で出さないんだ?」と言った。「マークが1人ついていてもとりあえず出せ」とも言った。そしてこうも言った。「マークが2人ついていても、俺にパスを出せ」と』。

『ゴールを奪うには創意工夫が必要だ。1つは仲間との連携をどう作るかだ。例えば、僕はヤンマーディーゼルでMFネルソン吉村とこんな連携をとっていた。吉村が右サイドから中にドリブルで切れ込む場面があったとすると、自分は相手DFの裏を狙わず、静かに後ろに下がった。なぜなら吉村は右利きでそういう角度でドリブルしている時は、ボールを蹴る体勢ではないからだ。そして吉村が止まってボールを持ち直した瞬間、ギュッと裏に走り、「キラーパス」を受けた』。

『もう一つの創意工夫は個人練習だ。例えば、早大時代、新宿の歌舞伎町で人波に逆行し、人にぶつかる前にかわしながら歩いてみたことがある。ただかわすのではない。向かってくる人にどこまで近づいたらいいのか計算しながら歩いた。正対している相手DFをフェイントで外側にかわしてシュートを打とうとする時、日本人ならば1.2m手前でかわせばよかったが、外国人選手だと出てくる足の長さが違う。だからボールが引っかからないよう、1.5m手前でフェイントをかけなければいけない。しかしその分速く前に出ないと抜けないわけだ。それでグイッと前に出る推進力を鍛えるために、向かってくる人との間合いを計算しながら歩いた』。

『僕は強いシュートを蹴るべく、足をいかに速く振るかを考えていたから、いすに座って足をゴムで固定して振ったり、水中で抵抗をつけて振ったりした』。

『1966年、イングランドW-CUPから日本に帰り、脳裏に残ったエウゼビオ(この大会の得点王になったポルトガルの黒人選手)の映像を思い浮かべ、自分と何が違うかを考えながら練習した。そして気づいたのは、軸足の踏み込みの位置だった。通常は軸足をボールの真横に踏み込むが、エウゼビオはボールよりも30センチ前に軸足を置いていた。その分、体重がボールに乗り、馬力のあるシュートが生まれるのだった。早速、それを実践してみたのだが、問題が生じた。軸足を前に置けば置くほど、蹴り足のつま先が土に引っ掛かり、スムーズにいかない。そこで工夫した。つま先を外側にゆがめて向け、地面に擦れないようにして、そのまま固定してシュートを打つフォームを作った』。

今とは時代が違い、器具やお金がない中での創意工夫だ。自分がゴールするためにいかに様々な準備をしていたことか。それが自信となり実力となって、周りが「蛮族」として認めてくれるようになったのであろう。確かに世界の超一流といわれるFWは、マンチェスターユナイテッドのウェイン・ルーニーしかり、レアルマドリードのクリスチャン・ロナウドしかり、自己顕示欲の塊のようにみえる。エゴイズムは一般社会では悪徳とされるかもしれないが、プロサッカーの世界では「一流のFWの資質だ」とも言われる。ゴールを仕留めるとは相手を打ちのめすことであり、自己中心的で何ものにも囚われない冷徹さが必要になる。最後の一撃で躊躇し集中を乱す選手はどんな訓練を施してもFWにはなれない。そうした一流のFWの資質をスペイン語では物騒にも「Instintoasesino」=「殺し屋の本能」と表現するそうだ。

この原稿を、ザックジャパンの初戦アルゼンチン戦を見た後に書いている。メッシやテベス、カンビアッソといったスター選手をそろえたアルゼンチン相手に、非常に組織的な守備をして、狭い地域に集まりボールを持った敵に次々とアタックに行く形や奪った瞬間に複数の人間が縦に動き出し攻撃につなげるなど約束事がはっきりしていた。香川真司のトラップセンスや敏捷性、長友佑都の強靭な体力とボディバランス、本田のキープ力やゴールに向かう姿勢など個の力でもアルゼンチンに負けていないことを見せてくれた。結果は、長谷部誠の強烈なミドルシュートをロメロがはじいた所を岡崎が詰めて前半に先制し、そのまま1-0で逃げ切った。選手がサッカーを楽しんでいるのが伝わってきて、見ていて本当に良い試合であった。今回いい結果が出せなかった森本貴幸や前田遼一などFW陣が、これからまさしく「蛮族」となり、エゴイスティックにゴールを奪ってくれることを夢見て、2014年ブラジルW-CUPでの日本代表の活躍を期待したいと思う。

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『最前線は蛮族たれ』

著者 釜本 邦茂
出版社 集英社新書
価格 735円(税込)

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