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『国家と神とマルクス』
「自由主義的保守主義者」かく語りき
清水 直也
佐藤優の名を知らない人も、その容貌をみれば見覚えがあるかもしれない。
小泉政権誕生まもなく外務大臣田中真紀子が外務省と衝突、アフガン復興支援でのNGO 排除問題で衆議院議員鈴木宗男が外務省に圧力をかけたと言い、そうは言ってないという外務事務次官と対立した。小泉首相は喧嘩両成敗ということで田中大臣と外務事務次官を更迭して決着させようとしたが、当時のマスコミ報道は真紀子側に好意的で、外務省そして鈴木宗男をバッシングした。
さらに国会で国後島のムネオハウスがとりあげられると、政治権力を用いて外務省に圧力をかけ、国税を自己の利益のためにばら蒔き、賄賂をとったというイメージがつくられた。その中で鈴木宗男と癒着する外務官僚という構図から、後に述べる国策捜査により、鈴木宗男とともに逮捕され、現在も控訴審を続けている外務官僚が佐藤優氏である。氏は現在も外務省を休職中の身分である。
タイトルに神、マルクスがあるが、氏は無神論研究をするために同志社大学神学部大学院を修了し、そもそも外務省に入省したのもチェコでの神学研究するためのひとつの手段であったという。神について、“一神教の世界では絶対的なものになるが、人間が他者に絶対に真実であると強要することは逸脱行為である”というスタンスであり、もちろん宗教本の類でない。マルクスについてもイデオロギーと関係なく、アメリカ発の市場原理主義の論理を探る氏の知識の引出しのひとつである。本書において、神学、哲学は思想や資本主義の内在的論理をつかみとるための知性であり、国家というものを考える切り口である。
著者は外務省でインテリジェンスの業務を行い、そのプロである。そして国策捜査で逮捕された。このインテリジェンスと国策捜査という用語は、氏の著書により広く世間に知られるようになった。
著者によれば“インテリジェンスには情報、諜報という日本語訳があり、政治、外交、軍事を横断するインテリジェンスという業務がある。外務省はいかに質の高いインテリジェンスを行うかが重要な使命である”という。先のムネオハウスも北方領土交渉のインテリジェンスのなかでのことであるが、もっと本質的なことが報道されていない。 国策捜査とは国の意思が働いた捜査ということだが、“これまで正しいと信じ、信念に基づいて行動してきたことが、ある日突然、犯罪にされてしまう”。本書では村上正邦(参議院のドンといわれ、職人大学に関する賄賂で逮捕)やホリエモンこと堀江貴文の逮捕も国策捜査としている。
本書に書かれている鈴木宗男、村上正邦らの取調べで、検事が浴びせた暴言は俄かに信じがたいが、まったく嘘ではあるまい。著者に対しては、担当検事は次のように言ったという。“これは国策捜査なんだから。捕まった理由は簡単。あなたと鈴木宗男をつなげる事件をつくるため。国策捜査は時代のけじめをつけるために必要で、時代を転換するために何か象徴的事件を作り出しそれを断罪する”。
我々は事件の情報をマスコミ報道で知るが、取調べ室でのやり取りをリークするのは国家権力を後ろ盾とする検察である。逮捕された被告が保釈され裁判で述べたところで、すでに出来上がったイメージは容易に崩せないし、マスコミもあれだけ煽っておきながら、いまさら誤報でしたとは報道できない。
“あのホリエモンも国策捜査に大当たりしてしまった。堀江氏は市場原理主義の象徴であるために逮捕される必然性があった。市場原理主義を突き詰めると、規制緩和、小さな政府でなく、無規則、無政府になり、格差社会が確立する。そうなると国体が弱くなり、日本国家の生存本能が市場原理主義に歯止めをかけるべくして、何らかの象徴的事件が日本国家生き残りのために必要とされた”。堀江貴文の逮捕を国体護持(堀江氏には天皇制を廃止し、大統領制にするという言説があったという)の観点から分析しており、マスコミ報道だけではうかがい知れない興味ある考察である。
著者の知的レベルが高すぎて、著者の語る国家の切り口を咀嚼説明することは難しいが、小泉首相が大多数の国民の不利益になる市場原理主義への政策転換をしながら何故人気があったのか、日本は歴史的に権威と権力が一緒にならない(権力者が権威を取ることができない日本独自のシステムが皇統によって維持されている)国体が保全されているという考察、アメリカの一人勝ちという現下において、二番目以下の日本、ヨーロッパ、ロシアなど世界規模の反米感情の論理的必然性、寛容の枠組み(愚行権)から各国家や民族は固有の歴史や神話を持つ権利があり、それを巡る論争は不毛であるなど、腑に落ちないことが多い昨今、腑におちる一冊である。
『国家と神とマルクス』
「自由主義的保守主義者」かく語りき
| 著者 | 佐藤 優 |
|---|---|
| 出版社 | 太陽企画出版 |
| 定価 | 本体1,600円+税 |