尾崎 利郎
(新潟県立がんセンター新潟病院 放射線診断科)
トモシンセシス(Tomosynthesis)とは Tomography(断層)とSynthesis(合成)の2つの言葉から作られた造語であり、乳腺組織の重なりを効果的に軽減することができる三次元(3D)撮影法です。
乳癌の一次検診は主としてマンモグラフィー(2D-MMG)により行われており、一次検診で「要精査」の通知を受け取った方は、専門医の在籍する精検医療機関を受診することとなります。しかしながら、2D-MMGは三次元の解剖学的情報を二次元の画像に投影するため、乳腺組織の残存が多い日本人は欧米人と比較して診断精度の低下が懸念されています。実際、触診や超音波検査で所見があり紹介されたにもかかわらず、精検医療機関で撮影された2D-MMGでは認識困難という事例はしばしばあります。
トモシンセシスはこのような場合でも病変を描出可能なことが多く、有用と感じています。トモシンセシスと2D撮影は、1回の圧迫で連続して行われます。トモシンセシス追加に伴う撮影時間の延長は10秒以下で、2D撮影と同程度の被ばく量が追加となります。それでも最新装置の被ばく量は従来装置に比べ半分程度に低減されており、二次精査という目的で使用する場合には十分許容される範囲と考えています。
トモシンセシスは非常に有用な検査である一方、いまだ新しい検査でもあり、幾つかの課題もあります。例えば画像データ量は従来の2D撮影の10倍以上になり、現状では多くの人を対象とした一次検診に利用できるレベルではありません。得られた画像の評価に必要な読影機器も、専用で高度なものが必要です。当然ながら読影に要する時間も増加しており、質と量の両立はなかなか難しいと感じています。
なお、一次検診における精度向上に関する解の一つとして、新潟市医師会乳がん検診検討委員会では「過去画像との比較」を目的とした読影のフィルムレス化を指向し、検討を重ねています。
(2017.05.28)