新潟県厚生連豊栄病院 病院長 宮島 透
当院は平成28年5月1日付けで、新潟市から地域包括ケアシステムの北区の拠点として指名を受けました。新潟市北区における当院の在宅医療への取り組みが評価されたものと考え、うれしく思っています。“新潟市在宅医療・介護連携ステーション北”という名称で現在活動を始めています。副院長をステーション長に据え、専属の看護師1名を配置、MSW1名、事務員1名の体制で運営しています。新潟市からの依頼業務は“在宅医療・介護連携を支援する相談窓口の運営”、“地域包括支援センターとの連携・支援”、“多職種連携研修会・勉強会の開催”、“市民出前講座の実施”などです。必ずしも“在宅医療・介護ステーション”が地域包括ケアシステムの大部分を担うわけではありませんが、この地域のケアシステムをスムースに行うとなるとこうした依頼業務だけでは不十分であり、その他のことにも手を広げなければならないと思いますが、それはなかなか大変であると考えています。
さて、当院がある新潟市北区は、平成の大合併で新潟市が政令指定都市になり8つの区制とした時に、旧豊栄市の全域と旧新潟市・旧横越町の一部が合わさり生まれた区です。人口こそ7万6千人余とそこそこの規模ですが、人口密度は新潟市の中心である中央区と比べると7分の1程度で、田んぼが多いいわゆる田園都市です。多少有名なのは日本最長の1000mの直線コースを有する新潟競馬場、渡り鳥で国の天然記念物のオオヒシクイが飛来する国指定鳥獣保護区の福島潟くらいでしょうか。赴任当時驚いたのは冬になると白鳥がそこかしこの田んぼで群れを成し佇んでいたことです。こうした環境の中、当院は病床数が199床の一般病院で、他の当区にある病院は、新潟リハビリテーション病院と精神科の単科病院である南浜・松浜病院の計4病院です。病院機能としては4病院で大きな競合なく成人・高齢者医療を受け持つことができると思っています。また老人施設が非常に多く存在し、地域包括ケアシステムを運用するにはいい環境が整っている地域と考えています。こうした中、地域包括ケアシステムをスムースに運営していくにおいては、在宅医療の整備が肝要と考えています。当院も訪問看護ステーションを有し、医師による訪問診療も行い、時には在宅での看取りも行っていますが、その主役は開業医の先生方に担っていただかなければなりません。当院がステーションを受ける以前から、北区の開業医の先生方が少しでも在宅医療を行いやすいように、在宅医療バックアップシステムを構築しました。これは開業医の先生が在宅医療を行っている患者さんの情報を当院に事前に登録していただき、夜間や休日に急変した場合、医師・訪問看護師から連絡いただければ速やかに入院を含めた患者受け入れを行うというものです。現状で登録患者さんは10名ほどで、実際にこれを利用した患者受け入れは1例のみですが、この時は非常にスムースに連携が取れ開業医の先生からは喜ばれました。今後目指すは、開業医と開業医のネットワークを作り、在宅医療を受けている患者さんの開業医間の副主治医制(複数主治医制)を構築することと考えています。病院が音頭をとってもなかなかうまくできないかとも思いますが、医師会の開業医の先生方と話し合いを持ち、場合によれば行政とも協力し進めていこうかと思っています。
さて当区には、在宅医療を精力的に行っている2名の開業医が先頭になって運営している“医療と介護の支え合いネット(通称ござれやネット)”があります。医療・介護にかかわる多職種の方に広く声掛けをして大勢の方に参加いただき、勉強会やカンファレンスを行い大いに盛り上がっています。平成28年6月4日に行われた“ござれやネット総会”では、地域包括ケアシステムを先進的に行っている千葉県柏市の開業医の先生に講演いただき、在宅患者さんの副主治医制などもお聞きしました。講演終了後の懇親会で、ビールが運ばれ乾杯をする直前、北区の開業医の先生の携帯が鳴り、“○○さんが呼吸停止です。”と連絡が入り、副主治医制をとっていない当地域であるためにその先生は一滴も飲まずに看取りに行かれました。こうした現状をみても、住民のみならず医師にも優しい地域包括ケアシステムの構築を考えなければならないとより感じた次第です。当院は今後ますます地域医療に積極的に取り組み、地域住民に安心安全な生活を提供し続けたいと思っています。当地域の他病院の皆様、開業医の皆様、行政の皆様、一緒によろしくお願いいたします。