恵生会南浜病院 院長 後藤 雅博
Ⅰ.はじめに:病院概要
当院は新潟市北区島見町にあり、昭和30年に59床で開設された単科精神科病院である。昭和52年には352床に増床、平成13年、開設者で初代院長の鈴木保穂先生が理事長になり、平成14年現理事長の鈴木好文先生が第2代院長となった。平成18年には新病棟に建て替え、352床から285床5箇病棟に減床再編成した。新しく60床を急性期治療病棟として運営し、さらに平成17年にとよさかクリニックを開設、それまでの長期入院主体・収容型の病院から急性期主体・地域精神医療への転換を図ってきている。現在の病棟はとにかく「病院らしくない病院」をコンセプトに、精神科病院では珍しい原色をふんだんに使い、各階にテーマカラーを決めて病棟内のテーブルや椅子もカラフルに明るくしている。平成24年に筆者が第3代院長として就任し、平成25年7月から県内単科精神病院としては初めて電子カルテを導入、平成28年4月から新しく精神科救急入院料病棟(スーパー救急病棟)を全個室60床で建設、それまでの急性期治療病棟を転換した(病床数は285で維持)。鈴木保穂先生は平成28年12月で101歳になられたが、まだ毎日病院に矍鑠として出勤しておられ、平成28年には長年の功績により日本精神科病院協会長特別表彰を受けている。
Ⅱ.精神科救急入院料病棟(スーパー救急病棟)について
精神科の救急システムは都道府県の精神科救急システム整備事業の中で行われていて、夜間休日の救急患者に対応するために、圏域を設定し、当番病院の輪番制(空床確保と精神保健指定医の当直)を敷いている。新潟県ではそれまで部分的に1圏域だった精神科救急圏域を平成26年度から完全2圏域とし、当院が新潟市を含む北圏域の精神科救急基幹病院に指定され、年間約160日の夜間休日の救急当番を担当している。精神科救急システムでは、まずかかりつけ医の対応が優先で、その次に救急当番病院ということが条件だが、当院では当番病院が対応不可能なときや、また夜間だけではなく平日の急な受診、入院要請にも「極力断らないで」対応することを病院全体の目標としている。そのために診療体制を整備し、毎日の新患当番の医師は2人体制、日中の受診相談は地域課の精神保健福祉士が対応、夜間は主任、師長の看護当直がいつでも相談に応じている。休日夜間の電話対応はかかりつけも含めると年間1,000件以上になる。
精神科スーパー救急病棟は一般身体科並の医師数と10対1看護、精神保健福祉士複数配置などが義務づけられ、新規入院患者のうち6割が3ヶ月以内の退院、病床の半分以上が個室であることなどの厳しい要件がある。当院は全国でも珍しい全室個室としたが、それは急性期の敏感で脆弱な時期に刺激を避けて適切な休養を確保すること、人権への配慮とプライバシーの尊重、「極力断らない」ために部屋のやりくりを考えずに速やかに必要な入院に対処できることなどを目的としており、今のところ順調に稼働している。
Ⅲ.社会復帰・地域定着支援・心理社会療法について
平成6年グループホーム、平成12年援護寮、福祉ホームを開設し、平成11年からは精神科デイケアを開始している。平成13年からは、減床のための退院促進を図る目的で退院促進プログラムと退院促進委員会を開始、精神保健福祉士を増員し地域支援課をスタートさせ、共同住居への退院促進を図った。同時にSST(社会生活技能訓練)を導入、心理教育、家族相談会などの心理社会療法もスタートさせ、現在は地域スタッフとの連携に力を入れている。いわば新築・減床というハードな変更に連動して、心理社会的治療の充実と地域ケアというソフトも実践してきたといえる。当然それらは多職種チーム医療を必要とするので、そこは一番重視するところである。
Ⅳ.おわりに:認知症そのほか地域のニーズへの対応
スーパー救急病棟を開始して、以前と違った点のひとつは認知症の周辺症状による入院要請が増えたことである。多くは総合病院の入院中や、施設入所中の問題行動で紹介されたり、かかりつけのクリニックなどからの依頼が多い。そのため当院では、認知症に関しては受診・入院相談の窓口担当者を決めており、さらに認知症サポート医が3ヶ月以内で退院可能で救急病棟への入院か、それ以外の病棟か、あるいは身体管理の方が優先するかを判断しており、かなり地域のニーズにスムーズに対応できるようになったと感じている。救急病棟が全個室のため、認知症周辺症状の対応がしやすくなったのも大きい。もうひとつは逆に10代の入院が増えたことも特長で、これも個室対応の利点と思われる。今後も、スーパー救急病棟とチーム医療を活かして、地域の精神科の様々なニーズに対応していきたいと思っている。