病院長 北村 秀明
1.はじめに
「佐潟荘」と言っても、どこにある病院かピンと来ない方もおられるかと思います。病院は新潟市西区の赤塚中学校の隣、ラムサール条約登録湿地・佐潟の畔にあります。平成27年に病院長が代わりましたので、改めて病院紹介させていただきます。現在、常勤精神科医6人、常勤内科医1人、総職員数およそ180人、日本精神神経学会新専門医制度・専門研修プログラム連携施設です。
2.病院創立者と精神医学
佐潟荘の創立者は、新潟大学医学部精神医学教室の第2代教授であった上村忠雄(1902年-1976年)先生です。先生は昭和3年新潟医科大学卒、昭和17年に同大教授となり、昭和34年には附属病院長に就任しました。昭和40年3月に大学を辞して4月に佐潟荘を開院。平成27年には創立50周年を迎えましたが、今でも「佐潟荘」という古典的な病院名を使い続けています。当時の大学精神医学というのは精神神経疾患の生物学的研究が主体でしたが、現在も扱う疾患は統合失調症や双極性障害、重症のうつ病など、脳の機能障害が想定されるいわゆる内因性精神疾患が多くを占めます。創立者が大学教授であったことや、特定医療法人としての役割を意識して、学生の卒前・卒後教育に可能な限り協力をして、司法関係では医療観察法の鑑定入院を行っています。
3.外来診療の特長
一般外来のほか、思春期・青年期の患者さんを扱う専門外来が好評です。自閉スペクトラム症等の神経発達症は言うに及ばず、被虐待症例や家族機能の深刻な障害など、多大な労力を必要とします。2名の専門医の受け入れ能力を超える受診希望に、十分応えることができないことが現在の悩みです。
一方、これまで認知症診療に対しては、どちらかと言えば消極的でしたので、中高年の心身・物忘れ外来を立ち上げました。生活習慣病を併せ持つ高齢患者さんは非常に多く、同日に内科医の診察を希望する患者さんが増えています。BPSD対応が多いのは当然ですが、MCIレベルの方の受診も増えています。近隣の病院にMRIやSPECTを依頼することもあり、この場を借りて感謝申し上げます。
4.入院医療の特長
現在の病床数は急性期治療病棟28床、精神一般32床、精神療養病棟60床が3病棟の計240床です。近隣の西蒲区、燕・三条市、弥彦村等からの急性期入院も多く、精神科救急システム経由の救急入院を含めて、2、3か月以内に退院できそうな患者さんは急性期治療病棟で治療します。最近は認知症の入院が増えていて、複数の身体疾患を持つ90歳代の患者さんも珍しくはありません。療養病棟180床は大抵ほぼ満床ですが、高齢の患者さんが癌等で病死されることが多くなりました。当院の常勤医はすべて麻薬施用者であり、緩和医療を積極的に行っています。
法人が運営する他の事業として、地域活動支援センター「ラグーン」は美味しいカレーを提供する憩いの場として、広く市民に認知されるようになりました。昨年開設された佐潟訪問看護ステーション「つばさ」の利用者数は右肩上がりで、精神障害者の地域生活を支えています。
5.将来に向けて
精神科病院における入院医療は縮小を余儀なくされることは必至です。精神疾患を抱える人々の地域生活・在宅医療の推進と、医療と介護の統合的運営が必要です。近頃は非常に多くの人が精神科外来を訪れますが、脳神経系の特定の機能障害が想定される自然種(natural kind)としての精神疾患はどれほどいるのでしょうか。薬物療法を含む生物学的治療法に偏重しない統合的なメンタルヘルスセンターを目指したいと考えています。今後とも佐潟荘をよろしくお願い申し上げます。