福島 昇
(新潟市こころの健康センター)
身体の病気で入院した人が、突然、「病室のカーテンの陰に人が隠れている」と言い出した。あるいは、ぼんやりとして、自分のいる場所や日付もわからなくなってしまった。
そんな話を聞いたことはありませんか。
せん妄とは、そのような症状を引き起こす精神(脳)の病気です。身体の病気などが原因となり、脳の働きが阻害されることで発症します。
症状としては、自分のいる場所や日付が分からなくなるなどの認知症に似た状態が見られるほか、幻覚が見えたり、怒りっぽくなって興奮したりすることがあります。
認知症とは違って、身体の状態が良くなると回復します。
せん妄はありふれた病気であり、外科・内科など身体科の病棟に入院している人の10~30%に見られると言われています。
せん妄の原因は様々です。
肺炎などの感染症や、肝臓・腎臓などの臓器障害のほか、大きな手術の後に起こることもあります。ある種の睡眠薬など、薬の影響で起こることもあります。
また、ご高齢の方や認知症のある方では起こりやすくなります。
そのため、ご高齢の方で、日頃から睡眠薬を使われている場合には、とくに注意が必要となります。
せん妄の治療は、原因となっている身体疾患を治すことが第一となります。
日中、病室を明るくしたり、会話を増やしたりして、昼夜の睡眠覚醒リズムを保つことも大切です。
幻覚などの症状が強かったり、興奮が見られたりする場合には、薬による治療が行われます。
せん妄が発生すると、まずは元となった身体疾患の主治医が対応しますが、症状が重く、なかなか良くならない場合には、精神科専門医による治療が必要になることもあります。
せん妄は、点滴を自分で抜いてしまったり、ベッドから転落したりといった事故の原因となるため、早期に発見することが重要です。
身体の病気にかかった方が、ぼんやりとして、つじつまの合わないことを言い始めるなど、いつもと違う様子が見られた場合には、すぐに医師や看護師に相談してください。
(2019.02.28)