横山 芳郎
独り老人の通性で私は夜中によく目覚めます。すぐに寝付けないので、テレビの深夜放送をつけますが、そこで『風の電話ボックス』という表題の放映をおぼろげに見ていました。詳細は記憶にないので、正確かどうか不明なのですが、記述してみます。
東北地方、八戸(はちのへ)は5年前の地震の際、大津波に襲われて、大勢の死者も出した土地ですが、その被災地の中央にポツリと電話ボックスが立っており、外との電話線もついていない電話機が一つ置いてあります。そこには被災して家族を失った人たちが、折々やってきて、今は無い肉親に電話して(カラの電話機のダイヤルを回して)、涙を流しながら、現在の思いのたけを述べて、しばし感慨に浸るところになっているというのです。テレビでは実際に話しかけている音声も流されており、涙なしには見ていられませんでした。
肉親の情というものが、電話というこの世のものを越えて、第四次元の世界に変哲している姿を目の当たりにみて感動しました。
最近、いろいろな世の悲しみに沈んでいる人たちに、グリーフケア(Grief Care)というのが行われていることを本書によって知り、患者の悲しみに対して医師がいかに対応するべきかを考えさせられました。
人間社会にはいろいろな深い悲しみがありますが、その淵にある遺族を支える取組みのことで、援助者(グリーフケアを促進する者)として、遺族同士、家族、友人、宗教家、学校関係者、医療関係としては精神科医のカウンセラーなどがあげられています。
しかしグリーフケアという言葉や活動が医療関係者の間に浸透しているとは言い難い状態で、医師会の皆様にもこういう認識をお考えいただきたいと思います。本書にはいろいろなケースが紹介されております。例えば、大切な人を亡くした後のさまざまな思いとか感情を抱くことは自然のことである。気持ちを楽にする一つの方法は、その時々の気持ちを無理に抑えず、ありのままの気持ちを表現することです、などと、いろいろな感情の持ち方などが述べられています。
『死別の悲しみに向き合う』
著者 | 坂口 幸弘 |
---|---|
出版社 | 講談社現代新書 |
定価 | 760円(税別) |