新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部言語聴覚学科 佐藤 克郎
北川原 真也
はじめに
アレルギー性鼻炎は鼻粘膜が主たる炎症発現の場となるⅠ型アレルギー疾患で、発作性反復性のくしゃみ、水様性鼻漏、鼻閉を3主徴とする1)。
本邦におけるアレルギー性疾患の罹患率上昇は近年さまざまな研究結果から議論されてきたが、2015年に行ったわれわれの調査でも大学生のⅠ型アレルギー性疾患(アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、気管支喘息)の罹患率が過去の先行研究よりも高率であるという結果が得られた2)。
今回われわれは、新潟県新潟市の大学に在籍する学生を対象に、アレルギー性鼻炎にターゲットを絞ってその有症率、病歴、季節性、症状、地域性、治療法につきアンケート調査を施行して分析したので報告する。
目的
アレルギー性鼻炎に関する調査には、よく知られた一連の報告があるが3)、対象の年齢や地域および調査年度の差異から本邦における臨床の全体像の理解は現時点では困難と思われる。そこで、多彩な地域から同年代の大学生が新潟県新潟市に集まっている新潟医療福祉大学という環境に注目し、地域性も考慮したアレルギー性鼻炎に関するアンケート調査を計画した。
対象と方法
新潟医療福祉大学言語聴覚学科在学生151名を対象に、無記名で直接配布による自己記入式アンケート用紙に出身県および市町村、性別、年齢を記入したうえで以下の8項目への回答を依頼した。
①:アレルギー性鼻炎または花粉症ですか。
(はい・いいえ)
②:①で「はい」に丸をつけた方はいつ頃から発症したか記載してください。
③:①で「はい」に丸をつけた方はどちらですか。(通年性・季節性)
④:③で「季節性」に丸をつけた方はどの季節ですか。(春・夏・秋・冬)
⑤:①で「はい」につけた方はどのような症状がありますか。
(鼻漏・くしゃみ・鼻閉・その他)
⑥:①で「はい」に丸をつけた新潟県出身以外の方は、新潟県に来てアレルギー性鼻炎または花粉症が緩和されたと感じましたか。(はい・いいえ)
⑦:医療機関を受診したことがある方は、受診科はどこですか。
(内科・小児科・耳鼻咽喉科・皮膚科・その他)
⑧:①で「はい」につけた方で治療法や薬の種類が分かる方は記載してください。
結果
対象は男性26名(17.2%)、女性125名(82.8%)で、平均年齢は19.5歳であった。出身地域は新潟市が42名(27.8%)、新潟市以外の新潟県内が47名(31.1%)、新潟県外が62名(41.1%)であった。
有症率は、「アレルギー性鼻炎または花粉症あり」と回答した合計(以下「鼻炎あり群」)が78名(51.6%)であった(図1)。
発症時期は就学前が19名(24.3%)、小学校が35名(44.9%)、中学校が8名(10.3%)、高校が11名(14.1%)、無回答が5名(6.4%)であった(図2)。
鼻炎あり群のうち、季節では通年性が27名(34.6%)、季節性が39名(50.0%)、両方(以下「混合性」)が12名(15.4%)であった(図3)。
季節性または両方と回答したうち、春が19名(37.3%)、夏が2名(3.9%)、秋が7名(13.7%)、春と秋が14名(27.4%)、春と夏が5名(9.8%)、春と冬が2名(3.9%)、夏と秋が1名(2.0%)、春と夏と秋が1名(2.0%)であった。複数回答の季節を合計すると、春が41名(80.4%)、秋が23名(45.1%)であった。出身地域別に季節をみると、新潟県内出身は通年性が19名(44.1%)、季節性が18名(41.9%)、混合性が6名(14.0%)であった(図4)。季節性または混合性のうち、春が8名(33.3%)、秋が5名(20.8%)、春と秋が7名(29.2%)、春と夏が1名(4.2%)、春と冬が2名(8.3%)、夏と秋が1名(4.2%)であった。複数の回答を合計すると春が18名(75.0%)、秋が13名(54.2%)であった。一方、新潟県外出身者は通年性が8名(22.9%)、季節性が21名(60.0%)、両方が6名(17.1%)であった(図5)。季節性と混合性のうち、春が11名(40.8%)、夏が2名(7.4%)、秋が2名(7.4%)、春と秋が7名(25.9%)、春と夏が4名(14.8%)、春と夏と秋が1名(3.7%)であった。合計すると春が23名(85.2%)、秋が10名(37.0%)であった。
アレルギー性鼻炎の症状は、鼻漏のみが12名(15.3%)、くしゃみのみが3名(3.9%)、鼻閉のみが2名(2.6%)、鼻漏とくしゃみが19名(24.3%)、鼻漏と鼻閉が9名(11.5%)、くしゃみと鼻閉が1名(1.3%)、くしゃみと目の掻痒感が2名(2.6%)、鼻漏とくしゃみと目の掻痒感が2名(2.6%)、鼻漏とくしゃみと鼻閉が26名(33.3%)、鼻出血が1名(1.3%)、無回答が1名(1.3%)であった。
新潟県への転居による症状の変化に関しては、新潟県外出身者で新潟県に来てアレルギー性鼻炎の症状が緩和されたのは19名(33.9%)、緩和されなかったのは25名(44.7%)、無回答が12名(21.4%)であった(図6)。
医療機関を受診した回答のうち、最多の受診科は耳鼻咽喉科で合計51名(75.0%)、次いで内科、小児科の各16名(23.5%)、皮膚科8名(11.8%)であった。複数の診療科を受診していた内訳は、内科+小児科1名(全体の1.5%)、内科+耳鼻咽喉科2名(2.9%)、小児科+耳鼻咽喉科1名(1.5%)、小児科+耳鼻咽喉科+皮膚科2名(2.9%)、内科+小児科+耳鼻咽喉科2名(2.9%)、内科+耳鼻咽喉科+皮膚科1名(1.5%)、内科+小児科+耳鼻咽喉科+皮膚科3名(4.4%)であった。
治療法に関しては22名(鼻炎あり群の28.2%)から回答があり、抗アレルギー剤内服による治療が19名(86.4%)と最も多く、他にネブライザー、点眼薬、点鼻薬、葛根湯という記載がみられた。
考察
花粉症を含むアレルギー性鼻炎は、本邦で近年その罹患率の上昇が問題となっている疾患である。
アレルギー性鼻炎に関する本邦における過去の大規模な集計によれば、1992年に46,718名(11県81校)の小学児童のアレルギー性鼻炎の有症率は15.89%であった。そして、2002年に36,228名に調査を行ったところ有症率は20.45%、さらに2012年に33,902名に調査を行ったところ有症率は28.05%であった3)。他の報告では、全国15,214名に調査を行った有症率は39.4%であった4)。大学生151名にアンケート調査を行った本調査での有症率は51.6%であり、過去の報告と比較して高値であった。また2015年の新潟医療福祉大学学生へのアンケート調査ではアレルギー性鼻炎の有症率は39%であり2)、今回の調査結果と比較するとアレルギー性鼻炎の有症率は2年の間で上昇していた。1999年の報告においては「地域、対象などにより差があるが、アレルギー性鼻炎は増加の傾向にある」との見解がみられるが5)、今回の調査と2015年の調査の差異は、新潟県新潟市におけるアレルギー性鼻炎の増加傾向を反映したと推察される。また今回と2015年の調査の比較で新潟市において2年でアレルギー性鼻炎が10%以上増加した理由には多くの要因の関連が推察されるが、スギ花粉飛散量の変化も考慮すべきであろう。環境省の花粉観測システムを使用した調査では、スギ花粉濃度の2〜5月の平均値は2015年22.9個/m2、2017年26.4個/m2であり、わずかに増加していた6)。
2015年の調査と比較して有症率が高かった他の要因としては、学生の県外出身者の割合が高かったことが考えられる。2015年のアンケート調査時では県外出身者は31.9%であったのに対し、今回の調査では41.1%が新潟県外出身者であった。そして、県外出身者の56.5%がアレルギー性鼻炎ありと回答していた。すなわち、新潟県外でアレルギー性鼻炎に罹患した後に新潟県に転居した県外出身者が多かったことによりアレルギー性鼻炎の有症率が高かったという経緯が推察される。
2007年の報告ではアレルギー性鼻炎の発症時の平均年齢は10.6歳であった7)。本調査でも69.2%が小学校までに発症しており、同様の結果と考えられる。2015年のわれわれの調査においても68%が小学校までに発症していた2)。
今回「鼻炎あり」と回答したうち、「通年性のみ」と「両方」を足した通年性全体の割合が50.0%であったのに対し、「季節性のみ」と「両方」を足した季節性全体の割合は65.4%であった。季節性アレルギーの中では春との回答が合計で80.4%、次いで秋との回答が合計で45.1%と多かった。本邦においては1960年代後半からアレルギー性鼻炎の増加がみられるようになり、当初の増加はハウスダスト、ダニによる通年性アレルギー性鼻炎であったが、近年は花粉症の増加が著しく、スギ花粉症の有症率の高さと症状の強さが社会問題になったとされている4)。本調査において通年性より季節性の有症率が高く、季節は春が多かったことはスギ花粉症有症率の増加が反映された結果であろう。出身地域別の発症季節に関しては、新潟県内出身者が春と回答した割合は合計で75.0%、秋と回答した割合は合計で45.1%であった。一方で新潟県外出身者では春が合計で85.2%、秋が合計で37.0%であった。すなわち、今回の集計では、新潟県外出身者に比較して新潟県内出身者では春が少なく秋が多い傾向があった。春に花粉が飛散するスギ、秋に飛散するキク科の雑草の花粉飛散量の新潟県における地域特性を反映したものと考えられる。
今回、鼻炎あり群において新潟県外から新潟県に転居して症状が軽減したとの回答が33.9%から得られた。2015年の報告で全国平均のスギ花粉症の有症率は26.5%とされていたのに対し、新潟県のスギ花粉症の有症率は15.0%と全国に比べ低値であった4)。また同報告のアレルギー性鼻炎全体の有症率は全国平均で39.4%であったのに対し、新潟県では26.1%とやはり低値であった4)。また他の報告では、スギ花粉症の有症率の地域差には花粉量と春の湿度が関係し、花粉量が多く湿度が低い地域ほど有症率が高いとされていた8)。環境省による2017年度のスギ花粉濃度の2〜5月の期間平均値は新潟都市部が26.4個/m2、関東都市部が34.3個/m2と新潟都市部が低値であった6)。気象庁による2017年度の3〜5月の平均湿度は東京都が66%、新潟県が69%と、新潟県の平均湿度が高値であった9)。すなわち、新潟県に転居して症状が軽減した理由として、出身地では新潟県よりも花粉量が多く平均湿度が低値であったことが考えられる。このようなデータはこれまでに存在しないため、「3割強が新潟県への転居により改善」という数字が持つ意味は今後の検討を要すると思われる。
今回の調査での医療機関受診科は、耳鼻咽喉科が合計75.0%と最も多かった。耳鼻咽喉科を受診するのはアレルギー性鼻炎の症状によるもので、小児科と内科の受診は他のⅠ型アレルギー性疾患である気管支喘息、皮膚科はアトピー性皮膚炎の症状によるものと推察され、受診科の比率は各疾患の有症率を反映したものと考えられる。
治療法のアンケート結果については、今回必ずしも回答率が高い訳ではなかったが、抗アレルギー剤を主とした内服薬による治療が広く普及していることが窺われた。大学生のアンケート回答のため薬剤の詳細な内訳は判定困難であり、耳鼻咽喉科専門医による報告の経時的解析が望ましいと思われる。
文献
1)西間三馨:アレルギー疾患・治療ガイドライン2007.協和企画,東京,174,2007.
2)佐藤克郎、山田智弘:Ⅰ型アレルギー疾患に関する大学生へのアンケート調査.新潟市医師会報,552: 1-4,2017.
3)西間三馨、小田嶋博、太田國隆ら:西日本小学児童におけるアレルギー疾患有症率調査-1992、2002、2012の比較-日本小児アレルギー学会誌.27: 149-169,2013.
4)奥田稔、今野昭義、竹中洋ら:鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症-2016年度版(改訂第8版),株式会社ライフ・サイエンス,東京,1-46,2015.
5)奥田稔:鼻アレルギー 基礎と臨床.医薬ジャーナル,大阪,111-118,1999.
6)環境省〈http://kafun.taiki.go.jp/Index/pdffiles/2017kafun-joukyou.pdf.〉(閲覧2018年9月21日)
7)平松隆:鼻汁好酸球検査と小児アレルギー性鼻炎-新規の一開業医の視点から-耳鼻臨床,100: 979-985,2007.
8)村山貢司、馬場廉太郎、大久保公裕:スギ花粉症有病率の地域差について.アレルギー.59: 47-54,2010.
9)気象庁〈http://www.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php.〉(閲覧2018年9月21日)
8)村山貢司、馬場廉太郎、大久保公裕:スギ花粉症有病率の地域差について.アレルギー.59: 47-54,2010.
図1 アレルギー性鼻炎の有症率
図2 アレルギー性鼻炎の発症時期
図3 アレルギー性鼻炎の季節分類
図4 新潟県内出身者の季節分類
図5 新潟県外出身者の季節分類
図6 新潟県外から新潟県への転居によるアレルギー性鼻炎の改善率
(令和元年7月号)