山東第二医院 院長 惠 以盛
はじめに
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)における骨ミネラル代謝異常は、リン蓄積によって始まると考えられている。近年、この初期の病態から線維芽細胞増殖因子23(FGF23:fibroblast growth factor 23)が重要な役割を担っていることが示されている。FGF-23は251のアミノ酸からなる32kDaの糖蛋白で、主に骨細胞や骨芽細胞から分泌される液性因子であり、透析患者では高リン血症がFGF-23を上昇させている可能性があり、死亡リスクや心疾患発症率と相関することが報告されている1、2)。
前希釈on-line HDF(「慢性維持透析濾過(複雑なもの)」)は、希釈量の増加に伴い中分子量~大分子量物質の除去効率が増加していくことが分かっており、2012年の診療報酬改訂に伴いon-line HDFは広く普及している。さらに、多くの高効率ヘモダイアフィルタも上市されており、標的溶質の高い除去効率性が期待されている。
今回、高効率ヘモダイアフィルタを用いた前希釈on-line HDFとⅡa型ダイアライザ使用の血液透析(HD)におけるFGF-23の除去効率について比較検討を試みた。
対象および方法
対象は当院の維持透析患者28例でon-line HDF患者(HDF群)が13名、HD患者(HD群)が15名であった。平均年齢64.2±12.2歳、平均透析歴10.7±8.4年であった。
検討方法を示す。透析の設定条件は、両群ともQb 200ml/min、透析時間4時間で施行した。QdはHDF群600ml/min、HD群500ml/minであり、HDF群のQsは200ml/minとした。
使用した透析液はキンダリー4E(扶桑薬品社製)であり、HDF群で使用したヘモダイアフィルタはGDF-21(日機装社製)、HD群で使用したダイアライザはFX-S 180(フレゼニウス製)とした。
測定項目を示す。週初めの透析前後に採血し、FGF-23(Kainos社FGF-23 ELISA Kit(Full-length))、intact-PTH (エクルーシスキット)、α1-MG、β2-MG、リン(酵素法)を測定した。
なお、低分子量蛋白の透析後値はHt補正を行い、統計解析はStudent-t検定を用いて危険率5%未満を有意水準とした。
結果
年齢はHDF群61.5±13.0歳、HD群66.5±10.9歳で有意差はなかった(P=0.303)。
一方、透析歴はHDF群16.4±8.9年、HD群5.7±3.1年でHDF群が有意に高かった(P=0.002)。
透析前FGF-23値と透析歴、年齢、i-PTHとの間では相関はみられなかった。
透析前FGF-23値と血清リンとの間には有意な正の相関が認められた(図1)。
全例における透析前のFGF-23は6739.1±8749.8(pg/ml)であり、HDF群では9965.2±11151.5(pg/ml)、HD群では3943.1±4277.3(pg/ml)と両群間で有意差はみられなかった(図2)。
FGF-23の除去率の比較は、HDF群で64.2±7.6%、HD群で39.3±9.0%であり、HDF群が有意に高値を示した(図3)。
β2-MGの除去率の比較は、HDF群で80.1±2.5%、HD群で68.0±5.9%であり、HDF群が有意に高値を示した(図4)。
α1-MGの除去率の比較は、HDF群で50.4±5.2%、HD群で21.9±4.0%であり、HDF群が有意に高値を示した(図5)。
FGF-23の除去率はβ2-MGの除去率と相関がみられた(図6)。
FGF-23の除去率はα1-MGの除去率と相関がみられた(図7)。
考察
CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常:CKD-mineral and bone disorder)のメカニズムは、血清リン濃度が上昇するとそれを感知した骨細胞からFGF23が産生され、腎尿細管細胞に発現するFGFR1-Kltho複合体を刺激し、尿細管細胞にP排泄を促すと同時に1,25D産生を抑制することで腸管からのリン吸収を抑制し、血清リン濃度の上昇を抑えている。CKD患者では、リン負荷に反応してFGF23濃度が上昇することにより、初期には血清リン値は正常範囲に保たれるが、FGF23は腎臓での活性型ビタミンDの産生も抑制するため、活性型ビタミンD低下を生じ、CKD早期におけるPTH分泌亢進の要因となる。このような状況でCKDがさらに進展すると、PTHやFGF-23の過剰分泌によって代償されていたリン蓄積が顕在化し、血清リン値が上昇し始めるとともに、ビタミンD低下により低カルシウム血症が出現する。これらが適切に管理されなければ、PTH分泌が持続的に刺激されるため、二次性副甲状腺機能亢進症を発症することとなる。
さらに、近年FGF23の高値がCKDにおける死亡の独立した危険因子であることが明らかとなり3、4)、FGF23値の低下が死亡率低下をもたらす可能性が示唆されている。
今回の研究において、FGF-23は血中リン濃度に応じて産生されるため、透析前FGF-23と血清P値との間に有意な正相関がみられた。
また、両群間で膜面積の差はあるものの、FGF-23の除去率の比較ではHDF群が有意に高値を示した。
これまで、前希釈on-line HDFによるFGF-23除去に関する報告はあるものの5)、長期にわたりFGF-23の推移を検討した報告はなく、高い効率のon-line HDFを継続することで血中FGF-23レベルが低下し、透析患者の生命予後の向上に寄与する可能性について今後の研究に期待したい。
β2-MG除去率は、β2-MGおよびα1-MGの除去率とそれぞれ高い相関を示した。
また、FGF-23の分子量は32kDaであり、α1-MGの33kDaと近似しているが、FGF-23の除去率がα1-MGの除去率に比較してHDF群で約20%、HD群で約45%高い。これは、FGF-23はアルブミンと結合していない可能性と分布容積の差、透析中の産生速度などが関連していると思われた。
まとめ
前希釈on-line HDFはⅡa型ダイアライザ使用のHDに比較し、FGF-23を効率よく除去できる透析方法であると考えられた。
この論文の要旨は日本透析医会雑誌(Vol.32 No.2 2017)に掲載済みである。
文献
1)Jean G, Terrat JC, Vanel T, et al:High levels of serum fibroblast growth factor(FGF)-23 are associated with increased mortality in long haemodialysis patients. Nephrol Dial Transplant 24:2792-2796, 2009
2)Kendtick J, Cheung AK, Kaufman JS, et al:FGF-23 associates with death, cardiovascular events, and initiation of chronic dialysis. J Am Soc Nephrol 22:1913-1922, 2011
3)Orlando M, Gutiérrez, M.M.Sc et al.: Fibroblast Growth Factor 23 and Mortality among Patients Undergoing Hemodialysis:N Engl J Med 359(6): 584-92, 2008
4)Isakova T, Xie H, Yang W. et al.: Fibroblast growth factor 23 and risks of mortality and end-stage renal disease in patients with chronic kidney disease.:JAMA 305(23): 2432-9, 2011
5)栗原佳孝、齋藤 毅、櫻井健治、他:前希釈on-line HDFはFGF-23の除去に優れているか?:腎と透析79別冊ハイパフォーマンスメンブレンʼ15:123-125, 2015
図1 透析前FGF-23とリンとの相関
図2 FGF-23(透析前値)の2群間の比較
図3 FGF-23の除去率の比較
図4 β2-MGの除去率の比較
図5 α1-MGの除去率の比較
図6 FGF-23除去率とβ2-MG除去率の関係
図7 FGF-23除去率とα1-MG除去率の関係
(令和元年6月号)