愛知医科大学医学部 臨床感染症学講座 教授
三鴨 廣繁
要旨
帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化により引き起こされる疾患であり、高齢者や免疫抑制患者において重篤化しやすい。特に、帯状疱疹後神経痛(Postherpetic neuralgia:PHN)は患者の生活の質に大きな影響を与える。近年、従来の生ワクチンに加えて組換えサブユニットワクチンであるシングリックス®が導入され、その有効性と安全性が国際的に評価されている。本稿では帯状疱疹の病態・疫学・治療に加え、予防の中心を担うワクチンについて、最新のエビデンスも含めて解説する。
はじめに
帯状疱疹(Herpes zoster)は、水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の再活性化によって発症する疾患であり、高齢者や免疫機能が低下した患者において重篤な経過をたどることがある。本稿では、帯状疱疹の病態、疫学、治療、ならびに近年登場した組換え帯状疱疹ワクチン(シングリックス®)の有効性と安全性に関する知見を概説する。
1)帯状疱疹の病態と臨床的特徴
VZVは初感染で水痘を引き起こし、その後知覚神経節に潜伏する。加齢や免疫抑制状態により細胞性免疫が低下すると、VZVが再活性化し帯状疱疹が発症する。臨床的には皮膚の神経支配領域に沿って帯状の水疱性発疹が出現し、強い神経痛を伴う。特に高齢者では帯状疱疹後神経痛(PHN)へと移行しやすく、生活の質(QOL)を著しく損なう。
2)疫学:宮崎・小豆島スタディからの知見
宮崎県で長年にわたって実施された疫学研究では、帯状疱疹の発症率は年々増加しており、特に50歳以上で有意に上昇している1)。小豆島スタディでは、PHNへの移行率は50歳以上で約20%、80歳以上では約33%とされ、高齢化社会における重要な公衆衛生上の課題であることが示唆される2)。
3)帯状疱疹の治療
急性期治療の基本は抗ウイルス薬の早期投与である。アメナメビル(Amenamevir)は日本で開発されたヘリカーゼ・プライマーゼ阻害薬で、1日1回の経口投与により利便性が高く、高齢者への使用にも適している3)。PHNの予防や疼痛軽減においても一定の効果があり、早期治療介入の重要性が示されている。
一方で、PHNに対する治療は困難であり、プレガバリンやミロガバリンなどの神経障害性疼痛治療薬が使用されるが、完全な除痛は得られないことが多い。したがって、治療よりも予防に重点を置くことが推奨される4)。
4)ワクチンによる予防:生ワクチンと組換えワクチンの比較
2025年6月現在、日本で利用可能な帯状疱疹予防ワクチンについて表1にまとめた。
a.生ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン)
日本国内では「乾燥弱毒生水痘ワクチン(ビケン®)」が使用されてきた。同じ生ワクチンに分類されるZOSTAVAX®(米国承認、日本未承認)は国内未承認であるが、日本でも生ワクチン株として使用されている岡株が含有されていることから、米国のデータは臨床的に外挿可能である。一般的には、生ワクチンによる帯状疱疹発症予防効果は50~60%程度である5)。Oxmanらは、生ワクチンの帯状疱疹の発症予防効果は51.3%、PHNの発症予防効果は66.5%であると報告している5)。生ワクチンの予防効果持続期間は5年程度であることが添付文書にも記載されている6),7)。なお、生ワクチンは、ウイルスの病原性が低減されているとは言え、免疫力が低下した患者では発症する可能性があるため使用できない7)。
b.組換えサブユニットワクチン(シングリックス®)
シングリックス®はgEタンパク質を抗原とし、アジュバントAS01Bを含む不活化ワクチンに分類される。免疫低下者にも使用可能であり、ZOSTER-006および022試験、さらに延長されたZOSTER-049試験により、その高い予防効果(90%以上)と長期持続性(10年)が示されている8),9)。
5)シングリックス®の副反応と安全性
主な副反応は注射部位の痛み、全身倦怠感、筋肉痛などであるが、いずれも数日以内に軽快する。一部ではGrade 3の反応が認められるが、2回目接種でも必ずしも悪化するわけではない。重大な副反応の発生頻度は極めて低く、全体としては良好な安全性プロファイルを有する8),9)。
6)医療関係者における接種の意義とガイドライン
日本環境感染学会による「医療関係者のためのワクチンガイドライン」第4版10)では、表2に示すように、以下の者との接触が想定される50歳以上の医療関係者および18歳以上の細胞性免疫が低下する基礎疾患を有する医療関係者、が帯状疱疹ワクチン接種の推奨対象者であると記載されている。
参考までに、愛知医科大学病院では、ガイドラインで対象となっている職員への費用負担を病院負担で支援する制度が設けられている。
7)ワクチン接種間隔と他ワクチンとの同時接種
COVID-19ワクチンやインフルエンザワクチンなどとの同時接種は可能であり、接種機会を逃さないことが重要である。
8)費用対効果と接種促進の課題
Tengらは、65歳以上の日本人を対象としたモデル解析において、シングリックス®接種が増分費用効果比(Incremental cost-effectiveness ratio:ICER)約420万円/QALYであり、国内の閾値(500万円)を下回ることから、費用対効果に優れていると報告している11)。また、PHN発症の減少により医療費・介護費の削減にも寄与するとされる。接種促進の課題としては、接種費用の自己負担分が障壁となること、医師側からの積極的な推奨が不十分であることが挙げられる。今後は、かかりつけ医による啓発活動や自治体による助成制度の拡充が重要である。
9)基礎疾患と帯状疱疹発症リスクの関係に関する新しい話題
一般的に、基礎疾患を有している人では、疾患そのもの、もしくは治療に伴って免疫能低下をきたしている場合も多く、帯状疱疹のリスクが上昇することがいくつかの研究で示されている。
Marraらは、循環器疾患を有する患者では、疾患を有さない方と比較すると帯状疱疹発症リスクが1.34倍高くなると報告している13)。Wuらは、慢性腎障害(CKD)を有する患者の帯状疱疹の発症率について検討し、CKD患者では12.4/千人・年、非CKD患者では7.8/千人・年であり、非CKD患者に比べ、CKD患者の帯状疱疹発症リスクは有意に高いことを報告している14)。
また、Yawnらは、COPDを有する患者が帯状疱疹を発症した場合に、帯状疱疹発症に関連して、COPD関連症状(18.7%)、呼吸困難(25.5%)、COPD増悪(フレア)(11.9%)が増加したと報告している15)。さらに、Parameswaranらは、帯状疱疹発症者と未発症者における疾患発症(帯状疱疹発症/プライマリケア診察)後30日以内の脳卒中発症のオッズ比は1.93であったと報告している16)。
さらに、最近になって、2013年より79歳への帯状疱疹ワクチンの定期接種を始めたイギリスのウェールズ地方28万人の健康記録データを後方視的に調査した結果、接種7年後の認知症発症率が20%減少したこと、この効果は特に女性で高かったことが判明した17)。帯状疱疹ワクチン接種が認知症リスクを減少させるメカニズムとして、ワクチンによって誘発される広範な免疫機構の賦活化が認知症発症を抑制する効果を発揮していると考えられているが、帯状疱疹ワクチンにはその適応はない。しかしながら、その詳細なメカニズムを説明できるような今後の研究も待たれる。
おわりに
帯状疱疹は個人の健康だけでなく、介護負担や社会的コストにも影響を及ぼす疾患である。高齢化が進む日本において、帯状疱疹およびPHNの予防は、健康寿命の延伸に直結する。さらに、免疫抑制状態にあるがん患者や透析患者などにおいても予防の重要性は増している。帯状疱疹ワクチンの接種推進のためには、帯状疱疹ワクチンの認知度を高めることに加えて、肺炎球菌ワクチンと同様に、かかりつけ医のアドバイスが重要となる12)。
医療機関や薬局など地域全体でのワクチン接種体制の整備と、国・自治体による政策的支援の両輪により、今後さらなる接種率の向上と社会的利益が期待される。
令和7年4月17日(木)
新潟市内科医会学術講演会にて特別講演
文献
1)外山 望: 病原微生物検出情報(IASR). 39(8), 139-141, 2018.
2)Takao Y, Miyazaki Y, Onishi F, et al. The Shozu Herpes Zoster (SHEZ) study: rationale, design, and description of a prospective cohort study. J Epidemiol. 22(2): 167-174, 2012.
3)Baba M, Nemoto O, Honda M, et al. Amenamevir, a novel helicase–primase inhibitor, for treatment of herpes zoster: A randomized, double-blind, valaciclovir-controlled phase 3 study. J Dermatol. 44(11), 1219–1227, 2017.
4)小川節郎, 杉本真理子, 植田俊之. 帯状疱疹後神経痛の発症予防と疼痛管理. 日本ペインクリニック学会誌. 17(2): 141–152, 2010.
5)Oxman MN, Levin MJ, Johnson GR, et al. A vaccine to prevent herpes zoster and postherpetic neuralgia in older adults. N Eng J Med. 352; 22: 2271-2284, 2005.
6)Schmader KE, Oxman MN, Levin MJ, et al. Persistence of the efficacy of zoster vaccine in the shingles prevention study and the short-term persistence substudy. Clin Infect Dis. 55(10): 1320-1328, 2012.
7)乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」添付文書. https://www.biken.or.jp/upload/product/document_pdf/fa-v/document_mt.pdf
8)Strezova A. Diez-Domingo J, Al Shawafi K, Tinoco JC, Shi M, Pirrotta P, Mwakingwe-
Omari A: Zoster-049 Study Group. Long-term protection against herpes zoster by the adjuvanted recombinant zoster vaccine: Interim efficacy, immunogenicity, and safety results up to 10 years after initial vaccination. Open Forum Infect Dis. 9(10): ofac485, 2022.
9)Cunningham AL. Lal H, Kovac M, et al.: Efficacy of the herpes zoster subunit vaccine in adults 70 years of age or older. N Engl J Med. 375(11): 1019-1032, 2016.
10)一般社団法人 日本環境感染学会. 医療関係者のためのワクチンガイドライン 第4版. 2024年11月発行. http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/vaccine-guideline_04.pdf
11)Teng L, Mizukami A, Ng C, et al. Cost-effectiveness analysis update of the adjuvanted recombinant zoster vaccine in Japanese older adults. Dermatol Ther (Heidelb). 12(6):1447-1467, 2022.
12)Higuchi M, Setogawa T, Izawa T, et al. Correlation between family physician’s direct advice and pneumococcal vaccination intention and behavior among the elderly in Japan: a cross-sectional study. BMC Fam Pract. 19(1): 153, 2018.
13)Marra F, Parhar K, Huang B, Vadlamudi N. Risk factors for herpes zoster infection: A meta-analysis. Open Forum Infect Dis. 7(1), ofaa005, 2020.
14)Wu MY, Hsu YH, Su CL, Lin YF, Lin HW. Risk of herpes zoster in CKD: a matched-cohort study based on administrative data. Am J Kidney Dis. 60(4), 548-552, 2012.
15)Yawn BP, Merrill DD, Martinez S, et al. Knowledge and attitudes concerning herpes zoster among people with COPD: An interventional survey study. vaccines. 10(3): 420, 2022.
16)Parameswaran GI, Wattengel BA, Chua HC, et al. Increased stroke risk following herpes zoster infection and protection with zoster vaccine. Clin Infect Dis. 76(3): e1335-e1340, 2023.
17)Eyting M, Xie M, Michalik F, Heß S, Chung S, Geldsetzer P. A natural experiment on the effect of herpes zoster vaccination on dementia. Nature. 641(8062): 438-446, 2025.

表1 日本で利用可能な帯状疱疹予防ワクチン

表2 医療関係者のためのワクチンガイドライン(第4版)に示された帯状疱疹ワクチン接種対象者
(令和8年1月号)