佐藤 克郎1)、戸田 巳琴2)
1)新潟医療福祉大学言語聴覚学科
2)桔梗ヶ原病院リハビリテーション部
はじめに
アレルギー性鼻炎は、現在本邦において有症率が極めて高い疾患と認識されている。アレルギーという用語は1900年代に、アレルギー性鼻炎の概念は1910年代に提唱され始め、1960年代に本邦で花粉症が発見され臨床研究が広く行われて以来、有症率の増加が報告され続けている。
われわれは、これまで2015年以来3回にわたり新潟市の大学生を対象にアレルギー性鼻炎に関するアンケート調査を行い、20歳前後の若年者における臨床像を検討してきた1-3)。そして、2010年代において新潟市の大学生のアレルギー性鼻炎の有症率が経時的に上昇している事実と、新潟県外出身者が新潟県に転居してアレルギー性鼻炎の症状が緩和される事実を報告2,3)した。そこで今回、一連の研究を開始して10年が経過した時点で最新の調査を行って新潟市という定点における10年間の変化を検討した。
本稿では、まず2024年の最新調査結果を報告し、10年間にわたる4回の調査結果の変遷を考察する。
対象と方法
最新の第4回調査は2024年度に新潟医療福祉大学言語聴覚学科に在学中の大学生116名を対象に、無記名でアンケート用紙に年齢、性別、出身県を記入したうえでアレルギー性鼻炎有無および有症者の病歴、症状、治療、新型コロナウィルス感染症対応による変化などの質問への回答を依頼した(図1)。
対象の内訳は男性20名(17.2%)、女性96名(82.8%)で、出身地は新潟県内が61名(52.6%)、新潟県外が55名(47.4%)であった。
結果
1)有症率
「アレルギー性鼻炎あり」との回答が68名(58.6%)であった。回答者の出身地は新潟県内34名(50.0%)、新潟県外34名(50.0%)であった。
2)発症時期
就学前が7名(10.3%)、小学生が23名(33.8%)、中学生が19名(27.9%)、高校生が13名(19.1%)、大学生が1名(1.5%)、無回答・不明が5名(7.4%)であった(図2)。
3)症状
複数の症状を挙げた回答が大部分であったが、合計すると鼻漏が61名(89.7%)、くしゃみが54名(79.4%)、鼻閉が47名(69.1%)、その他が24名(35.3%)であった。
4)季節分類
通年性が8名(11.8%)、季節性が36名(52.9%)、両方が24名(35.3%)であった。単一と複数の回答を合計すると、春が46名(76.7%)、夏が4名(6.7%)、秋が32名(53.3%)、冬が3名(5.0%)であった。
5)地域別の季節分類
新潟県内出身者では通年性が5名(14.7%)、季節性が17名(50.0%)、両方が12名(35.3%)で、合計した季節の内訳は春が21名(72.4%)、夏が2名(6.9%)、秋が17名(58.6%)であった。
県外出身者では通年性が3名(8.8%)、季節性が19名(55.9%)、両方が12名(35.3%)で、合計した季節の内訳は春が25名(80.6%)、夏が2名(6.5%)、秋が15名(48.4%)、冬が3名(9.7%)であった。
6)原因
花粉が59名(86.8%)と最も多く、ハウスダストが27名(39.7%)、ダニが15名(22.1%)と続いた。原因花粉はスギ28名(93.3%)、ブタクサ11名(36.7%)、イネ10名(33.3%)が多く、ヒノキ5名(16.7%)、シラカバ2名(6.7%)、マツ1名(3.3%)と続いた。
7)県外出身者の新潟県転居によるアレルギー症状の変化
新潟県に転居して増悪した回答が3名(県外鼻炎あり群の8.8%)、緩和したのが19名(55.9%)、変化なしが9名(26.5%)、不明が3名(8.8%)であった(図3)。
8)他のアレルギー疾患
合併疾患を合計するとアトピー性皮膚炎13名(19.1%)、気管支喘息6名(8.8%)、アレルギー性結膜炎、口腔アレルギー、ネコアレルギー、薬物アレルギーが各1名(1.5%)であった。
考察
1)有症率
1990年代から2010年代にかけて西日本の小学児童を対象に経時的にアレルギー性鼻炎の有症率調査を行った研究においては、1992年の調査で有症率は15.9%、2002年20.5%、2012年28.1%であった4)。また、全国の耳鼻咽喉科医および家族を対象にアレルギー性鼻炎の経時的調査を行った報告では、アレルギー性鼻炎有症率は1992年で29.8%、2008年39.4%、2019年49.2%であった5)。
今回、2024年に新潟市の大学生を対象に行った4回目の調査でのアレルギー性鼻炎の有症率は58.6%であり、過去の報告と比較すると10%以上の高値を示した。
また、われわれのこれまでの研究では、2015年の調査で新潟市の大学生の有症率は39%1)、2017年51.6%2)、2019年60.8%であった3)。すなわち、一連の調査でのアレルギー性鼻炎の有症率は2024年の結果は2015年1)、2017年2)からは9%以上増加しているが、2019年3)からは2%減少しており、新潟市の大学生のアレルギー性鼻炎の有症率の増加傾向は2020年前後で飽和状態になったと推察される。
アレルギー性鼻炎の有症率に関する2000年の報告では、21世紀もアレルギー性鼻炎の患者は増加し続けるが20世紀にみられた激増はないと推定されていた6)。われわれの一連の定点研究の比較で2010年代から2020年前後まで経年的な増加がみられていたが、2024年には増加がなくむしろ若干減少した結果は、予想以上にアレルギー疾患の増加にブレーキがかかったことを示唆している(図4)。1999年の報告では、アレルギー性鼻炎の増加因子として抗原曝露量の増加、生活様式の西欧化、医学知識の向上による受診行動の増加、ストレスなど多数の因子を挙げていた7)。本邦におけるスギ花粉量の変化に着目すると、環境省の花粉観測システムを使用した調査では、新潟県都市部におけるスギ花粉濃度の2~5月の平均値は2015年22.9個/㎡、2016年16.2個/㎡、2017年26.4個/㎡、2018年17.8個/㎡2019年34.9個/㎡、2020年12.0個/㎡、2021年22.1個/㎡であり8)、われわれの一連の調査が行われた2015年から2019年にかけて経時的にスギ花粉量の増加がみられたことは、有症率増加の原因としてスギ花粉量の関与を示唆する前述の説を支持する結果であった。
2)発症時期
2007年のアレルギー性鼻炎疫学調査の報告では、発症時の平均年齢は10.6歳であった9)。また、2020年の報告ではアレルギー性鼻炎の10歳代の若年における有症率の増加が著しかった5)。今回2024年の調査でも44.1%が小学生までに発症しており、特に小学生での発症が33.8%と最も高値であった。われわれの2015年1)、2017 2)、2019年3)の調査でも、小学校までの発症が各々69%、69.2%、58.1%と2010年代で顕著であった。
3)症状
1999年の報告ではアレルギー性鼻炎の主要症状として発作性反復性のくしゃみ、水様性鼻漏、鼻閉、合併症として眼および咽頭の掻痒感や喘息様症状を挙げている7)。今回の調査でも鼻漏89.7%、くしゃみ79.4%、鼻閉69.1%が主要症状として高率であった。
また、1999年の通年性アレルギー性鼻炎と季節性アレルギー性鼻炎別に症状の頻度を調査した報告では通年性アレルギー性鼻炎では、くしゃみ99.3%、水様性鼻漏99.0%、鼻閉99.0%の鼻症状3種が圧倒的に高率であり、季節性アレルギー性鼻炎では、くしゃみ92.0%、水様性鼻漏86.0%、鼻閉74.0%は同様に高率であるものの若干低かった7)。
今回の2024年の調査では、通年性はくしゃみ62.5%、水様性鼻漏75.0%、鼻閉50.0%で、季節性はくしゃみ80.6%、水様性鼻漏69.4%、鼻閉63.9%と、個々の鼻症状は前述の報告よりも低く、新潟市においてスギ花粉量が近隣の他地域よりも少ないため多様な症状が出にくいことが推察された3)。
4)季節分類
鼻アレルギー診療ガイドラインにおいては、1960年代後半からみられ始めたアレルギー性鼻炎増加の原因は、当初の増加はハウスダスト、ダニによる通年性アレルギー性鼻炎から花粉症へ移行したと述べていた10)。また、2020年の報告によると、通年性アレルギー性鼻炎の有症率は1998年で18.7%、2008年で23.4%、2019年で24.5%であったが、花粉症の有症率は19.6%、29.8%、42.5%とより増加が大きかった5)。2024年の本調査でアレルギー性鼻炎有症者全体に対する割合は通年性47.1%、季節性88.2%と、通年性に比べ季節性アレルギー性鼻炎の有症率が高率の結果であった。さらに、最も多い原因は花粉が86.8%で次いでハウスダストが39.7%であったことは、花粉による季節性アレルギー性鼻炎の有症率の増加を支持していた。
5)地域別の季節分類
われわれの一連の調査で2017年には新潟県内出身者は春が75.0%、秋が45.1%、新潟県外出身者は春が85.2%、秋が37.0%と県外出身者は春が多く、県内出身者は秋が多い傾向があった2)。一方、2019年の調査では県内出身者は春が95.5%、夏が9.1%、秋が36.4%で、県外出身者は春が94.1%、夏が5.9%、秋が32.4%であり、県内出身者は県外出身者に比べ春、夏、秋ともに多かった3)。
今回2024年の調査では県内出身者は春が72.4%、夏が6.9%、秋が58.6%、県外出身者は春が80.6%、夏が6.5%、秋が48.4%、冬が9.7%と県外出身者は春と冬が多く、新潟県内出身は夏と秋に多い傾向がみられた。2019年の調査3)で県内出身者は県外出身者に比し春も多かった特徴の理由は、環境省の花粉観測システムのデータで8)、2019年調査時の新潟県都市部におけるスギ花粉濃度の2~5月の平均値の34.9個/㎡が前回調査の26.4個/㎡に比べて高かったためと推察される。
また、われわれの2017年2)、2019年3)の調査および今回の調査では、新潟県内出身者は夏と秋に多い傾向があった。ブタクサ花粉などの夏~秋に飛散する原因抗原の飛散量が影響している可能性が推察され、今後の継続的な調査、花粉飛散量の観測が期待される。
6)原因
1999年のアレルギー性鼻炎に関する総説では一般的な抗原としてヒョウヒダニ、ハウスダストと花粉特にスギ、イネ科、キク科花粉を挙げている7)。また、われわれの2019年の調査でも最も多い原因は花粉73.1%、次いでハウスダスト46.2%であった3)。今回の調査でも花粉が86.8%と最も多く、次いでハウスダストが39.7%、ダニが22.1%であった。すなわち、花粉抗原がアレルギー性鼻炎の発症に最も影響を与えるという定説が支持された。
7)県外出身者の新潟県転居によるアレルギー症状の変化
われわれの2017年の調査2)では鼻炎あり群の県外出身者の33.9%が、2019年の調査3)では50.0%が新潟県転居によりアレルギー症状が緩和していた。本調査でも県外出身者の55.9%でアレルギー症状が緩和しており、過去の調査と同様、新潟県への転居によりアレルギー症状が緩和したという結果が得られた。
2020年の報告によると、スギ花粉症の有症率の全国平均が38.8%に対し新潟県は27.3%と低値であった5)。2010年の報告では「スギ花粉症の有症率の地域差は花粉の飛散期間、花粉数、春先の湿度が影響している可能性がかなり高い」と述べている11)。本調査では、鼻炎あり群の県外出身者において長野県が29.4%、秋田県と山形県が同率で14.7%と多かった。環境省による花粉観測システムによると、スギ花粉数は2021年の新潟県の山間部では10.8個/㎡、都市部では22.1個/㎡であった。長野県の山間部では26.1個/㎡、都市部では13.8個/㎡、秋田県の山間部では53.1個/㎡、都市部では9.5個/㎡、山形県の山間部では8.2個/㎡、都市部では36.4個/㎡であった8)。県外出身者が山間部出身か都市部出身かは不明であるが新潟県に比べると花粉濃度が高かったと考えられる。また、気象庁による2024年の2~5月の平均湿度は新潟市で72.8%、長野市で69.8%、秋田市で71.3%、山形市で67.8%であり、新潟市が最も平均湿度が高値であった12)。以上のことから、新潟県への転居によりアレルギー症状が緩和した理由として、出身地では新潟県に比し花粉飛散量が多く、平均湿度が低値であったためと推察される。
8)他のアレルギー疾患
アレルギー性鼻炎以外のアレルギー疾患の罹患についてわれわれの2015年の調査では、アトピー性皮膚炎7%、気管支喘息4%であった1)。2019年の調査では、アトピー性皮膚炎14.0%、気管支喘息11.8%、食物アレルギーとアトピー性結膜炎が1.1%であった3)。今回の調査では、アトピー性皮膚炎が19.1%、気管支喘息が8.8%、アレルギー性結膜炎、口腔アレルギー、ネコアレルギー、薬物アレルギーがそれぞれ1.5%で、以上を比較するとアトピー性皮膚炎が経年的に増加し、気管支喘息は変動していた。
西日本の小学児童(11県81校)を対象にアレルギー疾患の有症率を経時的に調査した報告では、アトピー性皮膚炎の有症率は1992年で17.3%、2002年13.8%、2012年11.7%、気管支喘息は1992年4.6%、2002年6.5%、2012年4.7%、アレルギー性結膜炎は1992年6.7%、2002年9.8%、2012年11.4%であった4)。同報告でアトピー性皮膚炎は経年的に減少していたが、われわれの2015年1)、2019年3)、今回2024年の調査を比較すると経年的に増加しており、傾向に解離がみられた。これは興味深い現象であり、今後も継続した調査が期待される。
文献
1)佐藤克郎、山田智洋:Ⅰ型アレルギー疾患に関する大学生へのアンケート調査.新潟市医師会報,552:1-4,2017.
2)佐藤克郎、北川原真也:新潟県新潟市の大学生を対象としたアレルギー性鼻炎に関するアンケート調査.新潟市医師会報,580:2-6,2019.
3)佐藤克郎、小林明日香:新潟市の大学におけるアレルギー性鼻炎の現状.新潟市医師会報,603:2-7,2021.
4)西間三馨、小田嶋博、太田國隆ら:西日本小学児童におけるアレルギー疾患有症率調査─1992、2002、2012の比較─.日本小児アレルギー学会雑誌,27:149-169,2013.
5)松原篤、坂下雅文、後藤穣:鼻アレルギーの全国疫学調査2019(1998年、2008年との比較):速報─耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として─.日本耳鼻咽喉科学会会報123:485-490,2020.
6)奥田稔:アレルギー性鼻炎─20世紀から21世紀へ─.アレルギー,49:1057-1059,2000.
7)奥田稔:鼻アレルギー ─基礎と臨床─.医薬ジャーナル,大阪,1999.
8)環境省:2021年2月~6月 花粉観測データ集、https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/index.html,2024年8月29日閲覧
9)園田紀子、岸川禮子:特集■小児とアレルギー性鼻炎 小児のアレルギー性鼻炎の疫学.JOHNS,23:133-137,2007.
10)日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会:鼻アレルギー診療ガイドライン─通年性鼻炎と花粉症─202年版(改訂第10版),金原出版,東京,2015.
11)村山貢司、馬場廣太郎、大久保公裕:スギ花粉症有症率の地域差について.アレルギー 59:47-54,2010.
12)国土交通省 気象庁:過去の気象データ検索.https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php?prec_no=35&block_no=47588&year=2024&month=&day=&view=,2024年9月4日閲覧
13)坂下雅文:特集●ポストコロナ時代のアレルギー性鼻炎診療 コロナ渦における話題 ポストコロナのスギ花粉症トータルケア.JOHNS,40:475-479,2024.
14)吉田幸一:アレルギー性鼻炎(花粉症)と衛生~過去から学び、コロナとともに生き、予防への希望~.日本小児アレルギー学会誌,37:18-22,2023.

図1 アンケート用紙

図2 アレルギー性鼻炎の発症時期

図3 新潟県外出身者の新潟県への転居によるアレルギー症状の変化

図4 10年間のアレルギー性鼻炎有症率の推移
(令和8年4月号)