総括医長 高村 昌昭
新潟市医師会の会員の皆様におかれましては、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。日頃より消化器内科学教室に格別のご支援をいただき誠にありがとうございます。教室の近況につきましてご報告いたします。
当教室は昭和42年に開講し、一昨年は節目である開講50周年を迎えました。寺井崇二教授は着任後5年目を迎え、教室の発展のために様々な取り組みを行ってまいりました。
1)臨床関連
水野研一病棟長、林和直副病棟長、坂牧僚 副病棟長、土屋淳紀外来長を中心として、急性疾患から重症、難治性疾患まで幅広く対応しています。特に診療に人的・時間的な負担を強いる急性肝不全や重症急性膵炎は、それぞれ「Niigata ALF (acute liver failure) network」、「Niigata SAP (severe acute pancreatitis) Network」を設立し、教室と県内関連施設のネットワークの構築を行っております。また今年は自由診療として、肥満症に対する“内視鏡的胃内バルーン留置術”を開始しました。教室を中心に行われている肝硬変に対する他家脂肪由来間葉系幹細胞を用いた肝硬変治療の治験はPhase Ⅰがほぼ終わり、Phase Ⅱに移行しつつあり、着実に症例を重ねております。
学術集会については、昨年の第1回 School of Hepatology 2018 in Niigata に続き、9月12日に寺井教授を当番世話人として、第21回肝不全治療研究会を「門脈圧亢進症に伴う慢性肝不全の臓器連関~脳・腎・腸~」というテーマで海峡メッセ下関にて開催しました。本学薬理学分野の平島正則教授の「血小板とリンパ管の分子レベルでの相互作用」という大変興味深い基調講演にはじまり、この分野の次世代を担う精鋭が集い、大変有意義な会となりました。
寄付講座については、昨年設立した阿賀野市の健康寿命延伸消化器疾患先制医学講座に加え、今年新たに2つの寄附講座を立ち上げました。消化器疾患低侵襲予防医学開発講座は、燕市・弥彦村・県と共同で医工連携およびこの地区のサポートのため設立しました。また消化器疾患診療ネットワーク講座は、妙高市と共同でけいなん病院を拠点とし、県立中央病院、上越総合病院とのネットワーク診療連携の構築を行っていきます。各拠点には特徴があり、阿賀野市の人口分布は日本の2040年と、燕市の人口分布は現在の新潟県のものと一致し、妙高市は県内で大腸癌の高い罹患率を示しています。ここでのコホート研究、先制医学研究、検診などの予防医学のデザインは新しい日本の医療モデルになると考えられます。新潟大学地域医療教育センター魚沼基幹病院をいれて4つの大学関連の拠点が形成されたことで、広大な面積を有する新潟県の医療を充実させていきたいと考えております。
肝炎啓発活動は、肝疾患相談センターとともに7月28日の世界肝炎デーに合わせて毎年行っております。これまでアルビレックス新潟(J1時代)の試合のハーフタイムなど多くの人が集まる場所で行ってきました。今年は「FUJI ROCK FESTIVAL」が開催される最寄り駅である越後湯沢駅構内でFESTIVALに向かう参加者に対して啓発活動を行いました。
2)研究関連
寺井教授は日本再生医療学会の理事として精力的に活動をされていますが、今年は日本消化器病学会の再生医療研究推進委員会の委員長として、日本の消化器病学分野の再生医療の研究も指導する立場になりました。今年の5月には第1回再生医療セミナーが開催されました。教室の再生基礎研究もAMED研究として少しずつ成果をあげ、特許の取得、プレスリリースをしており、さらに内視鏡技術やTissue Engineering技術と融合した再生医療の実現を目指しています。他の基礎研究としては、臓器間ネットワーク、iPS細胞を用いた研究、腸内細菌研究、エクソソーム研究、オルガノイド研究を、臨床研究としては、消化器疾患における内臓脂肪・骨格筋・腹水解析、小腸内細菌異常増殖症の解析、尿プロテオミクス解析、食道アカラシアに対する内視鏡治療(POEM)研究等多くの研究に教室員が着手しております。徐々に成果が出てきており、学会での主題発表や論文数も増えてきました。文部科学省の科学研究費の獲得状況は、消化器内科分野の国内11位で旧六の中では2位でした。教室員も着実に力をつけ研究費の獲得ができるようになりました。
教室では、様々な内視鏡機器の開発を燕三条地区の企業と進めております。この中で内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)やPOEMのトレーニングモデルであるEndoGelTMは、今年発明大賞を受賞しました。また新潟大学プロジェクトとして、次世代の介護支援トイレの開発にも着手しております。
寺井教授は次世代の人材育成にも力を注いでおります。海外では昨年のマインツ大学に続き、今年はハーバード大学、ロンドン大学、バーミンガム大学へ、国内では東京医科歯科大学難治疾患研究所に教室員が留学しております。また今年の4月30日には中国の遵義医科大学と、今後10年間の予定で、新潟大学―遵義医科大学早期消化管癌基礎臨床研究センターを設立し、さらに遵義医科大学との連携を進めていきます。教室には現在、北京首都医科大学からも留学生がきており、引き続き国際交流を進めていきます。これからも学位取得終了後の若い先生には、希望があれば積極的に海外留学をして広い視野、人材交流をしてほしいと考えております。
当教室は多くの教室員、同門の先生方に支えられ、寺井教授の掲げた教室のMission & Visionである、“治せない病気に取り組み診断につかない病気に取り組むことで人々の未来を変える”を具体的に取り組めるようになってきました。これらの取り組みの中で、新潟にて次世代のリーダー足りえる、総合消化器内科医、Clinician-Scientistを育成したいと考えています。新潟市医師会の会員の皆様におかれましては、引き続き当教室へのご支援、ご指導頂きますようよろしくお願い申し上げます。
年賀状に載せた医局員の集合写真
(令和元年10月号)