西山 慶
新潟市医師会の会員の皆様におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。平素より救命救急医学教室、高次救命災害治療センター、集中治療部に格別のご高配を賜り、誠に有難うございます。
1991年に新潟大学医歯学総合病院に集中治療部が4床で開設され、1996年に集中治療部が6床に増床し、2009年に中央診療棟に高度救命救急センターとして「高次救命災害治療センター(20床)」を開設、集中治療部も中央診療棟同敷地に移動し、2016年に集中治療部を8床に増床し、現在の大枠の形が創られました。そして本年に集中治療部をさらに12床に増床し、高次救命災害治療センターと併せて32床の体制としてさらなる救急集中治療の拡充に努めております。
救命救急医学講座初代教授である遠藤裕教授が退官後、2021年1月1日より西山慶が二代目の教授として就任し、併せて高次救命災害治療センター長、集中治療部長を併任する形で新たな体制でスタート致しました。救命救急医学分野、高次救命災害治療センター、集中治療部の近況につきまして報告申し上げます。
【スタッフ紹介】
2021年度の体制は西山慶教授、本多忠幸准教授、新田正和准教授、本田博之講師のもと、学内講座からの応援医師も含め11名の助教(松井亨、晝間優隆、普久原朝海、渡邊要、石川博補、上村夏生、八幡えり佳、青木志門、玉川大朗、林悠介、番場佑基)、1名の医員(土田雅史)、4名の専門修練医(中川智生、出内主基、冨田祐介、柴田健継、2名は学外出向中)で運営しています。さらに併設する新潟県東部ドクターヘリ基地では4名の特任教員(本多宙准教授、木下秀則講師、関口博史助教、星野芳史助教)が活動を行っています。
【診療内容】
日本海側唯一の高度救命救急センターとして日々内因性・外因性にかかわらず重症患者さんの救急・転院搬送を受け入れています。高次救命災害治療センター、集中治療部に隣接する形でドクターヘリの基地を設立しており、新潟県内全域の病院からも重症患者さんを受け入れており、年間出動件数は800件を超え、日本有数のドクターヘリ基地となっています。特に小児、重症外傷、ECMO治療を要する重症呼吸不全、広範囲熱傷などマンパワーおよび高度な集中治療を要する患者さんを積極的に受け入れています。一方、独立した整形外科外傷チームを有し、骨盤骨折を含めた重症外傷に対しても速やかに対応できる体制を構築しております。さらに、本学が北陸地区における小児医療のコア施設であり、最大の小児外科手術施行施設であることから、小児集中治療にも力を注いでいます。
【教室の目指すもの】
・初期診療(ER)と集中治療(ICU)との双方が実行できる医師育成
社会構造の変化・医療技術の進歩に伴い、臨床システムは急速に変化し、さらに情報通信科学や人工知能の進歩はその変化を加速度的に早めています。在宅医療の推進は緊急入院の割合を増やすこととなり、高齢化により多臓器障害や合併症を有した重症患者は増加の一途です。このような背景の中、急性期疾患に対し領域横断的診療を行い、重症管理も行うことができる救急集中治療医への社会の要請は日増しに高まっています。 我が国の救命救急センターは外傷センターから始まり、外傷医や麻酔科医が中心的存在となりICUでの集中治療を行ってきました。一方、同時期に北米では主としてERでの初期診療を行うER physicianが確立し、現在では我が国でも多くのER physicianが活躍しています。このような急性期疾患への診療においてERとICUとを継続的かつシームレスに行うわが国のスタイルは世界的に見ても先進的であり、COVID-19パンデミックにおいてもその力が十分に発揮されています。進まれる診療分野に関わらず、これから急性期医療を行っていくにはERとICUとの双方が実行できることが絶対に必要であり、私たちは医師としてのキャリアにかかわらず、このような一貫性を持った急性期医療を実行できる医師を全人的に育成していきたいと考えています。
・世界に向けてイノベーションを発信し、世界最先端の救急集中治療モデルを新潟医療圏に導入
生物学にとどまらず、工学・数学・社会学・倫理学など幅広いサイエンスに基づき、救急集中治療医学におけるイノベーションを進めることを教室の目標としています。具体的には、データサイエンスとしての臨床データ解析、工学者との医療機器開発、再生医学者との新治療法開発、物理学者や数学者との人工知能を用いた診断法の開発などを行っています。さらに情報通信科学や人工知能などを応用し、人口200万人の新潟医療圏に「世界」と「地域」とをダイレクトに繋いだ世界をリードする救急集中治療の地域モデルを創生していきたいと考えています。
・「Diversity&Inclusion」、「教えあい、学びあう」をモットーに新しいチーム医療を構築
実にCOVID-19パンデミックにより私たちが再び学んだことは、救急集中治療がカバーするべき範囲は余りに広く、深いものであり、この分野を一個体がカバーすることは不可能であることです。この余りに大きな分野を克服していくには、diversity(多様性)を持ったヒューマン・ネットワーキング以外に方法がありません。情報技術の進歩は知識や技術の陳腐化のスピードを早め、私たち医療者は早すぎる医療の進歩にどう対峙していくのか、大きな課題を負っています。そのためにも、いかに自分たちと異なる個体とcivility(礼節)を持って向き合いそこから学びを得るか、いかに大学というフィールドを活用し各分野のエキスパートと協調し、「教えあい、学びあっていく」かは、当教室にとっての最大の挑戦のひとつです。このような、diversityを大切にした頑強でしなやかなプロフェッショナル・チームこそ、私たちが目指しているものです。
・「世帯を支える」視点で、柔軟かつ持続可能な労務設計を行います。
医療者は医療の主体であるとともに、育児・介護など社会的弱者を扶養する主役でもあります。時代の要請により、多くの医療者がこの二つの役割をともに果たさなければならない状況が生じています。当教室は、医療者個人のみならず、その世帯全体を支えるという視点で労務設計を行っていきます。新潟大学医歯学総合病院 高次救命災害治療センター、集中治療部ではいち早く完全交代勤務制による診療スタイルを確立し診療を行っています。さらに労働集約性を向上させ、チーム医療のスキルの向上を図り、制度やルールを整備することにより、医療者を取り巻く多様な環境変化に対応できるような柔軟かつ持続可能な診療システムを構築しています。
【最後に】
本年一月より新しい体制で活動いたしました。折しもCOVID-19禍の最中であり、スタッフ一同、この危機を克服するべく粉骨砕身している最中です。新潟市医師会の先生方の温かく厳しい御指導・御支援を賜りますよう、今後とも何卒宜しくお願い致します。
(令和3年9月号)