総括医長 張 大行
沿革
当教室は明治43年の新潟医学専門学校創設と同時に設置された眼科学講座に始まり、令和3年で111年の歴史を持ちます。初代教授は京都帝大より赴任された菅沼定男教授で、菅沼教授は大正8年に慶應大学眼科の初代教授として転任されております。第二代教授は愛知医専から熊谷直樹教授が赴任されました。大正11年に新潟医科大学に昇格し、当教室も新潟医科大学眼科教室に改称されました。昭和21年に第三代教授として三国政吉教授が就任され、昭和24年に新潟大学が発足し、新潟大学医学部眼科教室となりました。昭和47年に岩田和雄教授が就任されると、緑内障に関する研究が飛躍的に発展し、その多大な業績で当教室の名を世界に知らしめることになり、「新潟と言えば緑内障」という地位が確立されることになりました。平成5年に第5代阿部春樹教授が引き継がれ、緑内障研究と診療をさらに高め揺るぎないものとし、平成24年に第6代福地健郎教授が就任され、現在に至っています。
近況
福地教授以下、医局員26名、視能訓練士8名、事務4名で教室運営を行なっております。臨床研修医制度開始以前と比べて、医局員も半数近くに減っており、関連病院の常勤医も少なくなっている状況ですが、令和3年4月に京都大学から赤木忠道准教授を迎えて、新たに魅力ある眼科学教室の再構築を図っているところです。大きな話題として、令和3年4月から外来棟に併設された外来手術室が本格的に稼働開始し、硝子体注射以外にも、日帰りで白内障手術、外眼部手術、一部の緑内障手術が行えるようになりました。
臨床
当教室の臨床分野は、緑内障、網膜硝子体、白内障、角膜・ぶどう膜・感染症、斜視弱視、神経眼科、眼腫瘍・眼形成、ビジョンサポート外来に分かれております。それぞれの専門分野で最新の検査機器、治療設備を駆使し、治療を行なっております。最新鋭の網膜断層撮影装置(OCT)や超広角走査型レーザー検眼鏡等の検査機器の他、最新鋭の白内障手術装置、硝子体手術装置、手術顕微鏡を導入しております。
〈緑内障外来〉
緑内障は当教室のメインテーマであり、最も力を入れている分野です。県外からも多くの紹介があり、緑内障疑い眼の診断から難治性緑内障の手術治療、低視力者へのロービジョンケアに至るまで、包括的な診療を行っています。年間約500件の緑内障手術を行っていますが、その約2/3が濾過手術となっています。長期の経過観察が必要な患者さんについては、かかりつけ医と連携し治療を行っており、年間8000件以上の視野検査が施行されています。また、原発開放隅角緑内障の長期経過観察例を多く抱えており、10年を超える治療経過が蓄積されている症例は約500名にのぼります。
〈網膜硝子体外来〉
網膜班では年間約400件の硝子体手術を行なっています。対象疾患は網膜硝子体全領域で4名のオペレーターが常時奮起しています。特色として、トラベクロトミー併用眼内レンズ強膜内固定術や眼内リンパ腫などの悪性疾患に対する硝子体生検など、グループをまたいだ合同手術が多いことがあげられます。また、近年新薬の開発が盛んな加齢黄斑変性治療薬の臨床治験参加施設となっています。
〈ぶどう膜・角膜・感染症外来〉
ぶどう膜炎に対しては生物学的製剤による治療を行っている県内でも少ない施設です。
角膜移植に関しては全層角膜移植以外にも、角膜内皮移植や深層層状角膜移植、角膜輪部移植等のパーツ移植も行っています。以前はアイバンクから献眼頂いた角膜移植片を主に使用していましたが、増加する需要に応えるため、現在は海外ドナー角膜を使用して毎月2件の移植が行われています。
〈小児眼科、神経眼科外来〉
神経眼科の診療は多岐にわたりますが、視神経炎・甲状腺眼症の診断および治療、麻痺性斜視の診断および治療、眼瞼けいれん・半側顔面けいれんのボツリヌス治療、原因不明の視力障害の精査が主な診療内容です。中でも甲状腺眼症については、急性期のステロイド治療から慢性期の斜視手術、さらには眼形成チームと合同で眼窩減圧術を行うことも可能であり、トータルでマネジメントできる国内でも数少ない施設の1つであると思います。斜視弱視外来では、小児・成人の共同性斜視や小児弱視の診断および治療だけでなく、小児の先天眼疾患のフォローアップもおこなっています。また、紹介の多い小児緑内障に対しても緑内障グループと綿密に連携を取り、弱視の予防・治療に努めています。
〈腫瘍・形成外来〉
腫瘍分野では眼瞼、結膜、涙腺を含む眼窩などの眼付属器腫瘍から、眼内腫瘍も含めて眼科に関わる腫瘍性疾患に対する手術および再建術を行っています。形成分野では眼瞼下垂、内反症、顔面神経麻痺の静的再建などの眼瞼形成手術から眼窩骨折、眼窩外傷、甲状腺眼症の眼窩減圧術などの眼窩手術を行っています。その他、涙道疾患にも力をいれており、涙道内視鏡検査/治療や涙囊鼻腔吻合術鼻内法/鼻外法も積極的に行っております。
〈ビジョンサポート外来〉
毎週金曜日には院外から張替涼子先生を招いてロービジョンケアが必要な患者さんへのサポートを行っており、ロービジョングッズの処方や医療福祉制度の紹介などを行っていただいています。
研究
研究に関しては豊富な症例の蓄積をもとに様々な臨床研究が行われています。特に緑内障研究は当教室の柱であり、長期経過観察例の視野および眼圧経過を用いて、QOLに根差した緑内障管理法を確立することが近年のテーマになっています。また最新の画像解析装置と静的視野計を用いた機能と構造の研究や、緑内障性視野障害が自動車運転に及ぼす影響についてドライビングシミュレータを使用した研究も行なわれています。新たな研究を立ち上げる際に症例の収集が比較的容易であることが当教室の強みであると思います。
他の領域では黄斑疾患における機能と構造の研究や、サイトメガロウイルス角膜内皮炎の臨床経過に関しての研究なども行われています。
最後に
眼科学教室の現状について報告させて頂きました。医局員減少に伴い、県内の基幹病院に常勤医師が派遣できない状況が続いており、医師会の先生方、何よりも地域の患者さまにご迷惑をおかけしていることをこの場をお借りしてお詫び申し上げます。今後も患者さまのQOLを守り、地域社会に貢献することこそが我々の使命であると考えております。新潟市医師会の皆様には引き続きご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願い致します。