病院准教授・総括医長 海津 元樹
日頃より新潟市医師会の先生方には、多大なご支援を賜り誠にありがとうございます。
今回ご紹介いたします新潟大学放射線医学教室は、1925(大正14)年に開設された、国内でも有数の歴史ある教室です。診断・治療・医学物理部門からなり、新潟県内を中心に地域の放射線医療を担い、多くの人材を輩出してまいりました。県内で活躍する放射線科医および医学物理士の多くは当教室関係者で、日頃から緊密に連携して診療・教育・研究を行っています。
それでは、当教室の近況につきましてご報告いたします。
初めに、2020年9月1日付けで石川浩志先生が第7代放射線医学分野教授に着任いたしました。専門は放射線診断学でありますが、診断・治療・医学物理の分野における責任者として就任しております。石川教授は長岡市出身で、長岡高校を卒業後、新潟大学医学部へ進学し、平成7年に卒業後新潟市民病院内科研修を2年行い、平成9年に放射線医学教室へ入局しました。その後県内の関連病院で、放射線診断学・放射線治療学の研修を行い、平成12年に新潟大学医学部大学院へ進学いたしました。研究テーマは肺癌の胸部CTと病理診断との対比で、平成16年医学博士を取得し、その後は肺癌の画像診断分野を専門とし、研究・教育はもちろん、一般画像診断の幅広い分野において活躍し現在に至っております。教室内では、平成16年助教、平成24年講師と昇進し、講師の時代には総括医長を5年間務め、学内の放射線医学診療のみならず、県内関連施設における放射線医学医療において深い理解を有する先生であります。肺癌の画像診断は、当教室の診断部門の重要な研究テーマとして位置づけられ、今後教室の若手医師によるRadiomicsや人工知能を活用した、画像診断分野の研究および技術開発が期待されております。酒井邦夫名誉教授以降久しぶりの本学当教室出身の教授を輩出することができ、医局員はもちろん同窓会の会員も大変うれしく思っております。
放射線診断部門におきましては、現在14名の放射線診断医で画像診断検査(CT3台、MRI3台など)、核医学検査(PET-CTなど)、画像下治療(IVR)を行っております。これらの検査や治療は近年の技術発展により医療における重要性が増し、件数が急激に増加し続けています。例えばCT件数は2010年に約2万件だったものが、2020年は約2万8千件と10年間で1.4倍と増加しました。今後も画像検査はさらに増加していくことが予想されます。その中で当院では放射線診断医による読影はCT、MRI、PET-CTともにほぼ100%行っており、緊急の検査読影、報告書の作成も迅速に行うことで画像診断のニーズに応えています。また画像下治療(IVR)ではカテーテルやガイドワイヤといったものから、金属コイルやステント、ステントグラフトなど多くのデバイスが改良され、また新しいデバイスも使えるようになってきています。これまで血管内治療では難しかった病変に対しても新たなデバイスを取り入れることで、治療できる幅が広がってきました。さらにハイブリッド手術室が設置されたことで、様々な診療科と連携して高度な画像下治療も行えるようにもなっています。当院は三次救急病院でもあることから、緊急の止血術などの血管内治療のニーズにも応えています。
続きまして治療部門におきましては、リニアック装置2台、小線源治療装置1台、および内照射病室1床で、悪性腫瘍の診療を主体として行っております。年間の新患受け入れ件数は650件前後と年度毎の大きな変動はありませんが、近年は放射線治療技術の発展に伴い照射方法が高精度化し、適応がある症例については定位照射や強度変調放射線治療といった治療計画に多くの労力を必要とする症例の割合が増加しております。現在治療医は常勤4名非常勤1名で全て放射線治療専門医資格を有しておりますが、日常の診療に追われる毎日となっております。このような環境で働いている放射線治療医師は新潟大学医歯学総合病院のみではなく全国的な傾向であり、放射線治療医のみで安心安全な放射線治療を速やかに提供することが困難な状況が発生しておりました。医学物理士はこの問題を解決する職種として近年放射線治療分野で重要視されている役職となっておりますので、医学物理部門につきましてこの場をお借りして説明したいと思います。
新潟大学は2012年度に文部科学省補助金事業である「東北がんプロフェッショナル養成推進プラン」に採択されました。この事業は東北大学、山形大学、福島県立医科大学、新潟大学の協定による共同プランで、宮城、山形、福島、新潟の4県の地域のがん医療水準を向上させるために、がん診療連携拠点病院と連携し、新潟大学では、地域がん医療に貢献するがん専門医療人を養成することを目的としております。この一貫として、医学物理士養成コースの設置、医学物理室の開設が行われ、医学物理グループの教育・研究・臨床の各活動が本格的にスタートし本日に至っています。本グループは医学物理に密接に関係する各部局(大学病院の放射線治療科、診療支援部放射線部門、および大学院保健学研究科)と連携して活動を行っています。さらに、2015年度より全国2例目となる医学物理士レジデントコースを立ち上げることができました。レジデントコースとは、主に大学院修了者に対して病院での実際の臨床業務に関わらせる事を通じて臨床研修を系統的に行うプログラムとなっております。
治療部門の研究分野につきましては、前立腺癌の外照射治療と小線源治療の適応について後ろ向き解析研究を行ってきましたが、前向き研究について準備を進めております。また、転移性脳腫瘍においては、全脳照射と定位照射について、その有害事象と治療効果の解析を継続しておりますが、近年急速に用いられるようになった分子標的薬の脳転移に対する治療効果も相まって、治療戦略が混沌とした状況となっており今後も放射線治療方法を考慮した適切な治療介入について研究を継続する予定です。
医学物理分野においても、強度変調放射線治療(IMRT)に関する機械学習やディープラーニングを用いた研究や、定位放射線治療において照射位置精度が局所制御に及ぼす影響評価など、高精度放射線治療の更なる高精度化に寄与するために様々な研究に取り組んでいます。
医局医師・物理士新人紹介
今年度の新規入局は叶許緑先生(医師)、田邊俊平先生(医学物理士)の2名です。
また、湊恒二郎先生(放射線診断)、本田母映先生(放射線治療)が大学院へ進学し、研究活動を開始しております。
学会・研究会活動
2020年度の学会活動では、米国放射線腫瘍学会(ASTRO)で中野智成先生が演題発表を行い、日本医学放射線学会(JRS)や日本放射線腫瘍学会(JASTRO)、日本放射線技術学会(JSRT)など、国内学会でも医局員による多くの発表がありました。
中野永先生(医学物理士)は第76回日本放射線技術学会総会学術大会にて優秀研究発表、および2019-2020 JASTRO 研究課題(強度変調放射線治療における線量分布の質的評価基盤の確立)の第2回放射線治療計画トライアル(前立腺癌IMRT)において第6位を受賞しました。中野智成先生(放射線治療)は第142回日本医学放射線学会北日本地方会で優秀演題賞を受賞、池田裕里恵先生(放射線診断)は第79回日本医学放射線学会総会にてJRS会長賞を受賞、平田哲大先生(放射線診断)は第143回日本医学放射線学会北日本地方会で優秀演題賞を受賞しました。
2021年の日本放射線腫瘍学会第33回学術大会においては中野智成先生の転移性脳腫瘍に対する定位放射線照射を併用した低線量全脳照射:JROSG13-1がBEST50に選ばれました。本年度の科学研究費においては石川浩志教授、中野智成助教、棚邊哲史助教(医学物理士)が獲得いたしました。
学生教育
臨床実習Ⅰが4年次の1月より開始され、当教室は1グループ3週間の実習を臨床病理・検査と協力して担当し、臨床実習Ⅱも5年次1月から開始しております。コロナ禍における医学教育は制限があるため、十分な指導ができない状況ではありますが、工夫をして遂行しております。講義は昨年度から全面的に対面方式からインターネットを用いた遠隔非対面方式に切り替え対応しております。
医局スタッフ紹介
令和3年6月現在の教室スタッフは、石川浩志教授、堀井陽祐放射線部准教授(放射線部副部長・外来医長)、海津元樹病院准教授(総括医長)、淡路正則病院講師、山崎元彦講師、太田篤助教(病棟医長)、佐藤卓助教、八木琢也助教、佐藤辰彦助教、中野智成助教、押金智哉助教、棚邊哲史助教(医学物理士)、中野永助教(医学物理士)です。医員は9名(うち大学院生4名、医員2名、パート3名)、医学物理士レジデント2名です。また、保健学科の高橋直也教授、笹本龍太教授、宇都宮悟准教授(医学物理士)、魚沼基幹病院(新潟大学地域医療教育センター)の川口弦助教にご協力をいただいています。
最後に、2025(令和7)年には開講100周年を迎える伝統のある当教室において、石川浩志教授の指導の下一致団結し、新潟大学医学部の放射線診療および研究・教育がさらに発展することを目標としておりますので、引き続きご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします。
まだ終息の見込みが立たないコロナ禍中ではありますが、医師会会員の皆様の益々のご活躍とご健康を祈念いたします。