助教 谷藤 理
新潟市医師会の先生方には、日頃より整形外科学教室に格別のご高配を賜り、誠にありがとうございます。当教室の近況につきましてご報告させていただきます。
当教室の第6代新潟大学大学院整形外科学・リハビリテーション学分野教授である遠藤直人先生が2020年3月にご退任されました。遠藤直人先生は1999年11月に教授に就任されて以降、約20年間、専門とされている骨代謝、股関節外科を中心に臨床、研究、そして教育に尽力されました。現在は2020年7月1日に当教室の准教授であった川島寛之先生が第7代教授としてご就任され現在に至っております。本学から新教授が誕生したことを教室員一同喜んでおりますが、これに安堵することなく、今後も新潟県の整形外科医療が揺るがぬよう、また研究面においても国内外に発信できるよう精進していく所存であります。
臨床について
外来診療は紹介制で火、木、金曜日に行っており年間で1200人程度の患者様のご紹介をいただいております。専門外来としては腫瘍、関節リウマチ、脊椎・脊髄、手の外科、膝肩スポーツ、股関節、小児整形、外傷、骨粗鬆症、側弯症があり、それぞれの分野の専門スタッフが対応し、的確な診断、リハビリ・投薬を含めた保存的治療、的確な手術適応を心がけております。
また自由診療として筋・腱・靭帯などの関節外組織の損傷に対するPlatelet Rich Plasma(PRP)注射、変形性関節症を含めた関節内病変に対するAutlogous Protein Solution(APS)注射も行なっております。
手術は年間約1000件(2019年度は1045件、2020年度は1011件)施行しております。外傷の対応として重度四肢外傷に対してはfix&flapによる開放骨折治療を単科で確立しております。脊椎脊髄損傷や骨盤骨折などにも対応しており、骨盤骨折については国内でも屈指の手術数です。股関節、膝関節では通常よく行われる人工関節置換手術はもちろん、自らのもつ再生能力を重視した骨切り術、骨移植術も多用し、さらに人工関節後のゆるみや感染といった問題例にも広く対応しております。スポーツ障害(外傷・障害)に関しては、関節鏡視下手術を行い、より早期かつ完全な形で運動復帰をめざした靭帯再建手術等を行っています。また膝関節の軟骨損傷に対する自家培養軟骨移植術の認定施設にもなっております。脊椎脊髄疾患に対しては、インプラント手術から顕微鏡下手術まで手術後できうる限り早期の社会復帰をめざす手術を施行しており、また脊椎に発生した腫瘍を、神経の損傷を最小限にしつつ、完全に摘出する手術を積極的に行っています。側弯症に対してはできるだけ小さい侵襲で最大の矯正効果をめざす手術を行っています。関節リウマチに対しては、独自に開発した人工関節を含め多種の手術療法で治療に当たっています。骨軟部腫瘍においては、悪性のものであっても放射線療法や化学療法を併用して極力切断をさけた患肢温存手術を行っております。
研究について
研究は各診療グループが個々ないし連携しながら基礎研究、臨床研究とも精力的に行っております。腫瘍関連では骨軟部悪性腫瘍に対する遺伝子診断・個別化医療に関する研究、腫瘍免疫環境に関する基礎研究など、脊椎・脊髄関連では脊柱靱帯骨化症の三次元画像解析、脊髄損傷に関する研究、運動器障害に対する大規模疫学研究、また脳研究所と連携した脊髄神経路の可視化についての研究などを施行しております。関節症・関節炎関連では変形性膝関節症の原因と病態に関する研究、関節リウマチの病態解明に関する研究、人工股関節置換術関連の研究、各種膝関節疾患の三次元アライメント・形態・運動解析、医工連携による各種バイオメカ研究、骨軟骨再生関連ではヒト骨髄・脂肪由来未分化間葉系幹細胞を用いた研究、骨代謝関連では非定型大腿骨骨折に関する研究などを施行しております。臨床研究も各分野において多施設共同研究も含め、展開しているところです。学会活動は昨今の新型コロナウイルス感染の影響もあり、特に海外学会への参加が制限されておりますが(2020年は例年より数は少なく、教室からの発表は7題)、現在は国内発表を中心に引き続き研究成果を発信しております。論文に関しては、2020年は62編の英文論文を教室から出しておりますが、今後もより一層、論文化を進めるべく教室員一丸となって頑張っております。
社会活動について
社会活動としては乳児股関節検診、新潟県野球肘検診、新潟市小中学校運動器検診(側弯・四肢と脊柱)などに参加し、新潟県内の若い世代の運動器疾患に対する早期発見・早期治療を目指した活動を行なっております。このような活動も昨今の新型コロナウイルス感染の影響を受け、昨年は活動の制限を余儀なくされましたが、活動の規模や方法を検討しながら継続しております。
アルビレックス新潟のメディカルサポートも引き続き行なっております。2021年シーズンは5月現在、無敗記録を更新しJ2リーグ首位の座を守っており、今後もJ1昇格の一助となるべく、そして今年から開幕する女子プロサッカーリーグであるWEリーグも含めて、複数人体制でサポートを継続していく所存であります。
寄附講座について
2018年10月に新潟県では初の整形外科単独の寄附講座「健康寿命延伸・フレイルとロコモ予防医学講座」が小千谷市出資で開設されました。そして2019年春には阿賀野市出資による寄附講座「健康寿命延伸・運動器疾患医学講座」が開設され、両講座ともに臨床活動、研究活動、社会活動で成果を出しており、今後のさらなる活躍と発展が期待されます。
新潟県内(外)の整形外科医の需要がますます増加している現状に対して、慢性的に人材の供給が追いついていない現状があります。教室員一同、新潟県の整形外科医療が揺るがないよう精進していく所存であります。また、新潟の医師不足対策にも真剣に取り組む必要があると(整形外科としてのみならず新潟県全体として)痛感しているところであります。
(令和3年6月号)