蒲原 宏
昨年の年末から今年の2月まで年下の4人の医師のお通夜にお参りをした。余りにも長生きしたためでもあるが、おかげで平素粗縁となっていたお医者仲間と通夜振舞の席でお話をすることができる御縁をいただいた。
ほとんどの方が第2、第3あるいは第4の医療現場でまだ働いておられるのに感心したり、故人の追憶話もさることながら、誰彼の消息を教えてもらったりで、しめっぽい話にならなくて結構楽しいひと時を過ごさして頂いた。
これも故人の遺徳の御縁であるが、今年1月15日締切りで医師の現況届出の話が出た。
4会場でお会いした約40人の医師たちはこのことを誰も知らず、届出を行っていたのは老生一人だけだったのにはちょっと驚いた。
「届出をしないと50万円の罰金を払わされるよ」「ウソ!何時からそうなった」「知ったのは2年前、2年毎に現況を届ける義務があるんだよ。今年は保健所から書類を送ってもらって提出したよ。日医ニュースの平成30年12月5日の1374号に「来年1月15日までに医師届出票提出を」との記事があったんで、市保健所保健管理課医療指導係から送ってもらったよ」。
現在医療に従事していない医師も届出を行わなければならない、と医師法第6条第3項にあり、届出を行わない場合、50万円以下の罰金とされており、医師等資格確認検索システム(https://licenseif.mhlw.go.jp/search_isei/)にも氏名等が掲載されません、など詳しい書類と届出用紙を送ってもらったよ」と話した。
皆は「数十年来そんな届出はしたことがない」とのこと。そうなると、そのデータで集計された厚労省発表の医師数は眉つば物ということになりはしまいか。届出をしないで罰金を取られたと言う噂も聞いたことがない。
今年提出した届出書類も可成詳細に記入しなければならなかったが、現役時代にはその様な届出用紙への記入提出した記憶はない。
お通夜の席に集まった40人余の医師でもゼロとなると全国でどれほど届出漏れがあるのだろうか。医師が知らずして法をおかし、罰せられないでいる。厚労省の発表している医師現況調査の数値は不確実な地方庁報告に基づいたものだと思えてならない。
前年から国会で紛糾を続けている厚労省統計処理の問題は生活上の金銭がからみ、政治、経済、行政上の大問題となっているのは衆知のことであるが、医師数(対象は歯科医、薬剤師も同じ)は直接の政治問題にならぬまでも等閑視されてよい理由はない。
届出に関する医師法第6条3項を守らないと50万円以下の罰金を払う破目になる。医師法は知らざると言えどもおかすと罰せられる鉄則がある。医師会も会員から不測の違反者を出さぬために、日医ニュースに!届出前年1回の公示だけでなく、保健所を通じて法と手続、様式を県、市等の会報に公報するか、添付して会員に周知する必要があるのではなかろうか。
2年毎の医師現況届は元来、個人の責任においてなされるべき医師法順守の義務ではあるがである。犬猿の与野党の喧嘩の種とならぬよう保健行政側もそのデーターの正確さのために積極的な働きを県・市・地方の医師会等に協力を仰ぎ積極的にうごくべきではなかろうかと思う。何はともあれ医者ならずとも罰金を取られるのは不快なことなのだから。
はからずもお通夜の振舞酒に酔っての厚労省医師統計のあいまいさについて知った一席の感懐。ついつい酔筆に走った次第。
(平成31年5月号)