新潟市医師会

  • 新潟市内の医療機関を探す診療科から
    • 内科
    • 小児科
    • 整形外科
    • 皮膚科
    • 眼科
    • 外科
    • 耳鼻咽喉科
    • 産婦人科
    • 精神科
    • 脳神経外科
    • 泌尿器科
    • 脳神経内科
    • 心療内科
    • その他
  • 新潟市内の医療機関を探す地域別から
    地域から探す
    • 秋葉区
    • 北区
    • 江南区
    • 中央区
    • 西蒲区
    • 西区
    • 東区
    • 南区
  • 休日・夜間に病気になったら急患診療センター
  • カラダのこと考えてますか?病気と健康のあれこれ
  • 医師会について
  • 市民の皆様へ
  • 医療関係者の皆様へ
  • 会員の皆様へ
  • 入会申込

新潟市医師会報より

新潟市医師会

蟻たちのこと

石塚 敏朗

この秋のはじめ、調理台に蟻の大群が現れた。その先は末ひろがりに、足音の聞こえるほどに堂々と左に流れていく。

昼食の支度をしている指先から手の甲へ4、5匹が登りついてきて、払い落としても別の奴らが肘あたりまで渡って来る。そのモゾモゾは気分がよくない。退治することに決めた。蟻の塊を濡れ布巾で掃き集め、隣の丼の中に投げ込むと、水没死した。

気分がさっぱりしないままだったが、群の右側に、3匹の蟻が麺屑を運んでいくのに出会った。昼飯を作るために切り開いた袋ラーメンからこぼれた麺屑の一部で、それはL字形をしていた。私は拡大鏡で眺めることにした。

麺屑の端に1匹が顎を張って噛みつき、後ろ向きに曳き始めた。

他の2匹は、錆びた針金みたいな手を麺屑にかけて押していく。だが、進行方向がなぜか左へ、左へとずれていく。目標は右手の壁下にある彼らの出入り口のはずなのだが、押す役の蟻には前が見えない、引き役の蟻の尻には眼が無い。

「水先案内をする奴はいないのか?……」。こうした集団には、かならず案内役とか、連絡役がいるはずだ。全く計画性がない。腹が立つ。

こうした中で、またもや失敗した。食器を置くために敷いてある段差3ミリほどのビニールシートに突きあたったのだ。これをむりやり登り切ったのは立派だったが、次はそのシートに彫ってある筒形の穴に墜落してしまった。

ここから脱出するのは容易でない。どこからともなく別の1匹が現れ、たちまちその底に身を沈め、背で麺屑を持ち上げたではないか。なるほどよく出来ている。一方、脇を通る別の集団の奴らは全く見向きもしないのである。

いざ、方向を立て直して次に進んだその先は、垂直に立つ絶壁である。さて、どのようにして、この壁の狭い隙間を、L字型に膨らんだ麺屑を引き上げるというのだろう。

ここで、調理台の奥の壁について説明しておこう。調理台の突き当たりはステンレス板で囲われた壁で、この下隅は前後の板が羽目になっている。羽目の隙間はわずか4ミリ弱、ここから蟻たちは出入りしていたのだ。

改めて調理台に肘をつき、拡大鏡を取り直して観察の目をこらした。案外すんなりと壁を登り始めた。だが、予想通りL字型の突起が羽目にひっかかり、作業は停止した。麺屑は羽目にぶら下がったままである。

そうした中、下から押し上げ役の2匹が消えてしまった。逃げたのか。ステンレス板の裏側は見えないので想像するほかないのだが、上から支えているのは今1匹だけの大仕事になる。登り始めてほぼ20分、何の変化もない。胸が痛くなった。

「なんという馬鹿力だろう!」。あんな西洋の甲冑みたいに変てこな丸い頭と丸い胸、そして丸い腹、それらを繋ぐ接続部分にどんな仕掛けがあるのだろう。足先に強力な吸盤でもついているのだろうか。

するとその瞬間、私は息をのんだ。麺屑が煙のように羽目の内側に吸い込まれてしまった。私は理解した。なんと別の3匹の蟻が取り付いて、L字の角を蟹の顎みたいな口で削り取ってしまったのだ。

「やったぞッ!……、偉い!……」

ところで、こうした大作業でも、指揮者らしきものは見当たらない。それでも成功した。

穴に落ちたときもそうだったが、軍隊のような団結力のある集団だと思っていたのに、案外のんきな仲間たちである。

大きな仕事を終えた後のように気が抜けて、寂しくなった。運搬担当の蟻たちは羽目をくぐり抜け、土の凸凹を渡り、仲間の待つ巣穴にたどり着いただろうか。

一寸愉快な気持ちにもなった。

それから1週間を過ぎた秋の日差しの傾きかけた中、冷蔵庫の前の床に黒く胡麻を撒いたような蟻が散乱していた。

皆、死骸だった。

「殺虫剤を撒いた?……」と、お手伝いの人に向いて聞いた。

「いいえ、どうかしましたか」と、庭の草取りから戻ってきたばかりの首を伸ばして覗き込む。

蟻は普通に働いて、普通に死んだ。突然、“花びら散らし”といった、つぶやきみたいなものがひらめいた。賛辞とも鎮魂ともつかぬ詩の砕片みたいに、芝居のきざな台詞みたいに。

(令和3年3月号)

  • < テスラは月まで上がる
  • 慶祝新潟市醫師會報發刊 五十周年六百號記念 >
新潟市医師会報より
新潟市の素描画
  • 2025年度作品一覧
  • 2024年度作品一覧
  • 2023年度作品一覧
  • 2022年度作品一覧
  • 2021年度作品一覧
  • 2020年度作品一覧
  • 2019年度作品一覧
  • 2018年度作品一覧
  • 2017年度作品一覧
  • 2016年度作品一覧
  • 2015年度作品一覧
  • 2014年度作品一覧
  • 2013年度作品一覧
  • 2012年度作品一覧
  • 2011年度作品一覧
  • 2010年度作品一覧
  • 2009年度作品一覧
  • 2008年度作品一覧
  • 2007年度作品一覧
  • 2006年度作品一覧
  • 2005年度作品一覧
巻頭言
学術
特集
病気と健康のあれこれ
寄稿
開院の自己紹介
わたしの好きな店
マイライブラリィ
私の憩いのひととき
旭町キャンパスめぐり
病院だより
勤務医ツイート
Doctor's Café
理事のひとこと
新潟市一次救急医療施設の利用状況
あとがき
  • トップページへ
  • ホームページTOPへ戻る
  • このページの先頭へ
新潟市医師会事務局
〒950-0914 新潟市中央区紫竹山3丁目3番11号
TEL : 025-240-4131 FAX : 025-240-6760e-mail : niigatashi@niigata.med.or.jp
  • ご利用にあたって
  • プライバシーポリシー
  • サイトマップ
  • リンク
  • お問合せ
©2013 Medical Association of Niigata City.