岡田 潔
前回まで随筆にロック映画三部作を書きました。これは2019年のイギリス映画で、ビートルズです。さわりしか書きませんが、ある日、世界規模で12秒の大停電が起こり、歴史上からビートルズの存在が完全に消えてしまいます。主人公のジャックはアフリカ系のミュージシャン。自称「完全な負け組」の彼が、大停電による交通事故で入院します。友人たちは、彼の退院祝いに新品のギターをプレゼントします。彼が友人たちの前で、ギターの試し弾きで歌ったのはビートルズの「イエスタデイ」でした。ここからはネタバレになるので想像してください。脚本を書いたのは、過去にタイムトラベルができる主人公が人生をよりよいものにしようとする、イギリス映画『アバウト・タイム』と同じくリチャード・カーティスです。一つだけヒントを書きます。ビートルズがいないので、当然なのですが、あの悲しい事件も起こりません。
私の感想。主人公がまったくイケてないところが、この映画がイケてるところです。
色んなところに伏線が張られ、わかる人にしかわからないマニアックな仕掛けもありますが、基本誰でも楽しめるような設定です。映画の中ではビートルズ以外にも「消えたもの」がたくさんあります。イギリス流のブラックジョークなので、日本語字幕だとわからないかもしれません。これは予備知識があったほうが、映画がより楽しめます。
消えたものリスト
Oasis→イギリスの国民的人気バンド。メンバーがビートルズフリークで、自分たちはビートルズがいなかったらミュージシャンにはなっていないと公言している
Coke→ビートルズの大ヒット曲“Come Together”の歌詞に“Coca-Cola”が出てくる
Cigarette→ジョン・レノンが作曲した“I’m So Tired”の歌詞に出てくる単語
Harry Potter→丸メガネ、ビートルズの誰かに似てるでしょう
(注:岡田の研究による。正解はこの映画の監督ダニー・ボイルに聞いてみたい。彼は『スラムドッグ$ミリオネア』で2009年アカデミー監督賞を受賞している)
現代のイギリスを代表する人気ミュージシャン、エド・シーランが、本人役で登場します。日本ではあまり知られていませんが、彼は男性ソロ・アーティストでは世界一のセールスを記録しました。グラミー賞も何度も受賞しています。
(令和4年4月号)