中村 稔
平成30年6月に「働き方改革関連法案」が国会で可決成立した。全労働者には時間外労働の上限規制が設けられ、医師等は令和5年4月から導入される。医療機関において、特に医師、看護師は入院されている方々に対して「この時間になったので業務終了」というわけにはいかず、急性期病床においては業務時間の延長が常時となっている。これらを解決するために、ITを導入して業務の簡便化が必要であるものの、電子カルテ等に関してタブレット端末を使用した簡素化や「発生入力」の可能化などが実現されておらず、更にデータベース化に関しても同じ入力を複数箇所で行う必要性があるなど、世の中ITが進んでいるのに医療分野は非常に進歩が遅れている印象がある。
そんな遅れているIT化等による業務改善を待つのではなく、種々のアナログ的業務改善により効率化を図ることはできないだろうか?
医療はサービス業と言われることもあるが、service(奉仕)の語源はラテン語であるservus(奴隷)であり、英語のslave(奴隷)やservant(召使)という言葉が生まれた。サービスは上下関係があり主人に仕えることにより報酬を得る(対価を求める)というタテの関係である。一方hospitalityはラテン語であるhospitalitis(客人へのもてなし)から発生しており、病院Hospitalでは客人(患者)をもてなし、「人間性や信条、個性、感性」を通じて労働者は「もてなす喜び」を得ることができる素晴らしい場所である。報酬は「もてなし」の結果であり、ホスピタリティが病院にとって本来必要なものであろう。
「もてなす喜び」はどのようにして得られるのであろうか?「必死の形相」で働いているスタッフを見て「もてなし」とは見られないであろう。では「必死の形相」を接遇(マニュアル)で「笑顔」に変えればいいのか?自分に「もてなす」力がなければ通じないはずである。現在は種々の業務が専門化されており、各々プロフェッショナルとして活動しており、「我が部署は」なんて言葉が聞こえるセクショナリズムが強くなっている。私のいた20年前の病院においては部署を超えての「今少し時間の余裕のある私が手伝いましょうか?」という究極のワークシェアリング(仕事を分け合うこと)が実施できていたので、働きやすい職場であったと実感する。このワークシェアリングで以前のように「もてなす」時間と心の余裕ができるのではないだろうか?
ホスピタリティは来院されている方々だけに対してだけでなく、同じ組織に勤務しているスタッフにも発揮すれば本来の「働き方改革」が成立すると考えるのは私だけだろうか?
病院を去った今、つくづくと考えてしまいます。
(令和4年5月号)