本間 隆夫
15年ほど前の終の住処の新築の際に、その主暖房を薪ストーブにした話を平成24年の県医師会報の「炉辺閑話」に載せて頂きました。
以来、冬になると、エアコンからのモーター音もかぜも全く無く、目の前でいつも炎が静かにゆらめき、遠赤外線で建物全体が暖まる最高の暖房を楽しんでいます。最近は本会のメンバーにもストーブを楽しむ方が増えたようです。今回、そのような皆様の参考になればと思い、私のストーブ薪入手の経験をお伝えします。
それは、実際にストーブを使い始めると誰もがすぐに遭遇して困る問題が薪の入手だからです。薪はムサシやコメリに売っています。しかし、長さ40センチ程度の小さなひと束が700円以上するのです。小さなストーブで週末の夜にささやかな炎を楽しむだけならばそれでも良いでしょう。しかし、日常生活での暖房としても使うとなるとかなりの量の薪が必要になります。実際、私が使っている長さ60センチの薪が入るノルウェー製の重さ170キロのストーブでは、ちっぽけな市販の細薪ではひと束をまるごと放り込んでも1時間も持ちません。しかも、ひと冬の間、家全体の暖房として、毎日、朝から深夜まで燃やしっぱなしなのです。市販の薪だとその購入費が半端な額では済みません。車のガソリン代金の何倍にもなるはずです。そこで、何とか自力で薪を手に入れようと色々な工夫を行うことにしました。
まず、思いついたのは山の森の木です。山では木はいくらでも生えています。しかし、人里離れても、現実には所有者がいるので勝手に切って持ってくるわけにはいきません。切り倒されて山の道端や広場などに投げ捨ててある木を拾ってくるしかありませんでした。しかし、やってみるとそれでは、出会う薪の量自体たかが知れていて到底現実的ではありませんでした。そこで、河川敷に転がっている流木に目をつけました。これは所有者がいないので誰が頂いても構いません。阿賀野川や荒川などの中流域には結構あります。特に大水の出た後はたくさん現れます。しかし、巨木が多くて、ノコギリではとても切っていられません。チェーンソーが必要です。チェーンソーは市内のムサシやコメリで売っておリ、小さいもので2万円、大きくても5万円くらいです。使い方はパソコンよりずっと簡単です。早速、チェーンソーで切って持ってくることにしました。やってみると確かに大きな丸太が手に入ります。しかし、始めるとすぐに別の問題があるのに気づきました。それは、いくら河原に流木がおり重なっていても車がその近くまで入れる場所が限られているのと、そんな流木のある大きな河は新潟市内から遠いのとであまり効率的でないことでした。
そこで、もっと近場を考えました。それは海岸に打ち上げられている流木です。これも所有者がいないので、いくら持って来ても構いません。小針から寺泊までの道路脇の海岸には、巨大な流木が所々に打ち上げられて乾燥しています。道路脇なので近づくのも楽です。そこで、チェーンソーを持って行って切り始めました。確かに太いきれいな乾燥丸太が河原でよりも楽に手に入りました。しかし、改めてストーブの本をみると、海の流木は塩分を含んでいるので、薪にするとストーブが傷むので使うなとあります。これを知るとやめざるを得ませんでした。
そこで、困ってしまい、古い付き合いの親しい農家の患者さん方に、もらえる木がないかなと相談しました。すると、いらない木なら結構出ますよ、という返事でした。農村部では自宅敷地内や畑などに生えている木が邪魔になって切ることはよくあるので、知り合い達に話をしておいてあげますよ、とのことでした。すぐに連絡がきました。すごい話でした。近くの知人が家の改築の邪魔になる樹齢100年のケヤキを切るのでどうですか、というのです。ケヤキは火力が強い最高の樹質です。早速、生えているその木を見に行きました。根元の直径が1メートル、高さが20メートルを超えるすごい大樹でした。これを伐採業者が切り倒して何とか動かせるサイズに切り分け、トレーラーで運んで畑の空き地に積み上げて、さあどうぞ、でした。そこで、休日になると、チェーンソーを持って切りに行くことになりました。太さ1メートル、長さ2メートル近い巨大な丸太が積み上げられているのです。半端な相手ではありません。ちょっと押したくらいではぐらつきもしない巨木塊との戦い開始でした。チェーンソーで縦横に切目を入れて長さ50センチ、太さ30~40センチの何とか運べるサイズにして家に持ち帰るのです。やっていると、わざわざお金を払って、ジムで筋トレをしている人達が気の毒にすら思えてきました。ひと夏かけて全部バラして薪にしました。凄まじい量になりした。
その後も、同じように、切り倒す樹木があるのでどうぞという話が時々くるようになり、薪の材料樹の入手には不自由しなくなりました。次第に、チェーンソーを振り回して大樹を切断するのが筋トレを兼ねたアウトドアの楽しみの一つにもなっていきました。時には、背の高い木をドーンと切り倒す爽快感も味わえました。
そして、切り倒した太幹を薪に仕上げるには、チェーンソーで50~60センチの長さに切ったのち、さらに10~15センチの太さになるよう縦割りをする必要があります。そのため、薪作りを始めた当初、まず薪割り用の斧を買いました。1メートルくらいの柄がついた斧です。丸太を台の上に立てておき、大きく振り上げた斧でガツーンと叩き割って薪にするという昔話に出てくる薪割りのイメージを想定していたからです。しかし、やってみると体力を要するとんでもない作業でした。割り始めてわずか15分でヘロヘロになってへたり込んでしまい放棄せざるを得ませんでした。もちろんチェーンソーでも太い丸太を縦切りにすることはできます。しかし、縦切りは横切りと違って切る面積が大きいのと、切り口面の数が多くなるのとで時間がかかりとても非効率的なのです。そこで、見つけたのが薪割り機です。これは家庭の電源で使える電動機械で、頑丈な歯で太い丸太を縦に挟んで油圧の力で二つに割ってくれるのです。近くのムサシに売っていました。1台3~4万円で重さは20kgほど、サイズは幼児用の自転車くらいです。これを使うと長さが50センチ、太さが30~40センチくらいの丸太が10秒くらいで二つに縦割りできます。週末にはビールを片手にでっかい丸太を薪割り機でメリメリバキンとかち割るとなぜか溜まっていた1週間分のストレス気分が発散するという新たな楽しみも生まれたのです。これで、私のストーブ薪の入手、作成法は完成と思っていました。
しかし、さらに嬉しい話が出たのです。伐採木ありの連絡をくれる何人かの方はルレクチェの梨農家でした。その一人が、梨の木は老木になると実のつきが悪くなるので若木に更新するため程々の年月で切り倒すがそれも薪にどうですか、というのです。昔は、切り倒してその畑で燃やしたが、今は、消防署から禁止されて燃やせず、仕方なく業者にお金を払って産業廃棄物として引き取らせているので、私が持って行ってくれるといいのですが、とのことでした。他の果実農家の方も、何人かが同じことを言ってくれたのです。つまり、不要になった果樹の処理の手間と経費が負担になっていた果実農家の方と、薪にする樹が欲しい私の利害とがピッタリ合致していることが判明したのです。果樹は背の高い木ではなく太さも程々なので切り倒すのが容易なうえ、木質も緻密でとても薪に向いているのです。しかも、全て新潟市内の果樹園です。これで私のストーブ薪の入手はさらに豊かでしかも身近になりました。そんな状況下なので、現在、私のストーブ薪作りの道具としてはチェーンソー3台と電動薪割り機1台を使っています。私の家周りの隙間にはそうやって得た2トンを越える薪が通年積んであります。これは1冬半相当の必要量です。それでも、もらえる木がある話がくるとすぐに切りに行き、自宅に置き場スペースがない時期にはその果樹園の隅に積み置かせてもらって乾かしておきます。冬になって家周りの薪を燃やして置き場が空くと病院からの帰りに果樹園によって少しずつ運びこむのです。
今年の春先も、新たな道路作成のために抜去せねばという私の病院近くの畑のルレクチェの木を10本ほどもらい、既に薪にして家周りに積みあげました。そして、今は天気が良い週末には白根で300本ほどのルレクチェのみごとな成木群を端から順に切り倒して薪作りをしています。これは後継者がいないためもう梨作りを終えるので全部どうぞ、と広い梨畑の木を丸ごと頂いたからです。この凄まじい量だと全てを切り倒すのは年内では終わりそうもありませんが、この広い畑の梨の木だけで2年ぶんくらいのストーブ薪の材料が余裕で確保出来たことになり大喜びです。さらに、私もトシで体力も落ちてきたので、今度はその薪作り伐採の私の手間を減らすための手伝いのアルバイト人材も育ててさらに楽に薪を得る工夫も始めています。
以上のように、私は薪作りから始まる薪ストーブを楽しんでいます。これまでの私の経験が会員の皆様が薪ストーブを楽しむ際の御参考になれば幸いです。
(令和4年7月号)