佐々木 壽英
桜の季節になると新潟県内はもとより、近隣の各県を訪れて有名な桜を撮影してきた。
桜前線が日本列島を北上するニュースは毎年話題になる。新潟県においても、桜の開花時期は海岸部と標高の高い所とでは約1か月違って、山間部の雪深い所では満開が5月のゴールデンウイーク頃となる。
中子の桜と儀明の桜は魅力的な残雪桜として、満開の時期になると全国から多くのカメラマンが撮影に訪れる。
ここでは残雪の中に咲く「中子の桜」、「儀明の桜」、「星峠の棚田の桜」、「清水集落の桜」を紹介したい。
「中子の桜」
中子は津南町の信濃川と中津川に挟まれた丘陵地にある集落で、そこの農業用溜池の周りに中子の桜がある。特に、対岸の島状に見える場所の桜が有名で、ここに雪が多く残り、水面への映り込みを撮影出来れば満足であり、桜に霧がかかれば更に趣が加わってくる。
この農業用池の周りには何本もの桜の古木があり、どれも魅力的な被写体で風が止んで池への美しい映り込みを狙って撮影する。これに霧がかかるかはその時の運である。
2012年5月4日に中子へは朝早く到着した。しかし、霧はかかっていなかった。一通り周囲の桜を、特に池への映り込みを中心に撮影した。その後、この池の奥から坂道を登り、上の牧場近くのブナ林を撮影した。昼近くになったので中子の池に降りて来た。なんと、朝は霧がなかったのに、昼近くになって中子の池に霧がかかっているではないか。慌てて、中子の桜を撮り直した。この写真1は霧がかかっていた12時41分に撮影したものです。
「儀明の桜」
儀明の桜は十日町と上越市を結ぶ国道253号線のすぐ下にあり、車を道横の駐車場に停めて高台の国道から撮影できる。そのために、関西方面からも多くのカメラマンが訪れる。
周囲の雪の棚田を入れて撮影するのが一般的である。この桜は日中撮影しても絵になるが、この桜に朝日が差し込んだ時は特に美しい。
国道の下に回り込んで、桜に近接して撮影することもできる。雪が少ない年には水を張った田んぼへの映り込みも撮影する。
「星峠の棚田の桜」
星峠の棚田は全国的に有名であるが、この棚田に桜の木があることは知られていなかった。2011年5月3日に星峠の上の道から棚田を撮影していた時、棚田の中に小さな桜の木らしきものを見つけた。棚田の細い小径をたどって行くと、満開の枝垂れ桜の若木を発見し、興奮しながら撮影した。畔の雪が解けて棚田の存在がハッキリとわかる時期で、しかも薄っすらと霧がかかっていた。あれから10数年が経過した。この枝垂れ桜がどのように成長しているか、ゴールデンウイークに訪れてみたいと思っている。
「清水集落の桜」
六日町の魚野川に流れ込む登川の奥に清水集落がある。この集落から登って行くと巻機山登山口駐車場がある。駐車場周辺には見事なオオヤマザクラの古木が何本もある。これを目指して何回も撮影に訪れた。
この写真4は、巻機山を背にして駐車場側から見た丘の上に咲いていた一本桜で、風があったので霧は期待できず、スローシャッターで桜の枝をぶらして風を意識して撮影したものです。
ある時、この写真4の桜の裏側で左側にある棚田の横に小さな桜が咲いているのを見つけた。その桜に導かれるように棚田の雪原を500mほど登って周囲を見渡した。すると、右手の急な斜面の上方に大きなオオヤマザクラの古木が目に入ってきた。これを目指し、三脚を杖代わりにして残雪の坂を登って行った。その桜の下には数人の地元カメラマンが集まっていた。「他所のカメラマンに知られない様に、内緒にしていた桜なのに、どうしてここが分かったのか」と言われた。地元で極秘にしておきたいほどの貴重な桜であった。
この桜からは巻機山登山道の象徴的な黒岩も桜越しに見えている(写真5)。
この桜をじっくりと撮影してから、雪の斜面を下り、巻機山登山口の駐車場に車を停めた。駐車場下の子沢川の河原から、バックに巻機山を入れての山桜の撮影も楽しい。
春になると県内の有名な桜の名所には多くの観光客が集まるが、残雪の中にひっそりと咲く桜も風情があって魅力的である。
桜の写真集は2014年の「桜」に始まって、これまでに「信州の桜」、「中子の桜」、「新潟の桜」、「阿賀町の桜」、「越後の桜」、「喜多方と鶴ヶ城の桜」、「山形城の桜」と8冊製作してきた。ここに載せた4か所の桜は写真集「越後の桜」の中に収めてある。
写真1 「中子の桜」2012年5月4日
写真2 「儀明の桜」2012年5月2日
写真3 「星峠の枝垂れ桜」2011年5月3日
写真4 「清水の桜-1」2011年5月7日
写真5 「清水の桜-2」2011年5月2日