清水 敬三
月曜日の朝は、少しだけ気が重い。週の始まりというだけで、空気がどこか鈍い。そんなある日、たまたまオレンジ色の長袖Tシャツを着て、その上にベン・ケーシー型の白衣を羽織った。袖口から鮮やかなオレンジがちらりと覗いていた。
外来で患者様に呼び止められた。「先生、そのオレンジ、いいですね。月曜ブルーがちょっと元気になりました」と言われた。思いがけない言葉に、こちらまで明るくなった。
それ以来、月曜日はオレンジと決めている。Tシャツだったり、靴下だったり、時にはペン一本でもいい。白衣の下に隠れていても、袖口や襟元から少しだけ顔を出すオレンジが、患者様とのちょっとした会話のきっかけになる。
「今日もオレンジですね」「先生、今週は濃いめですね」─そんな言葉が交わされるたび、診察室の空気が少し柔らかくなる。病気の話だけではない、色の話、季節の話、ちょっとした笑い。医療の場に、ほんの少しの遊び心があるだけで、患者様の表情が変わる。
オレンジは、元気の色だ。ビタミンカラーとも言われる。私にとっては、患者様との小さな約束のようなものでもある。月曜日にオレンジを身につけることで、週の始まりに少しだけ前向きな気持ちを届けられるなら、それは医療の一部だと思っている。
いつの間にか、スタッフの間でも「オレンジ君」と呼んでくれる人がいる。少し照れくさいが、悪くない。色が持つ力、人とのやりとりの力を、改めて感じている。
川柳
袖口に 元気の色が 顔を出す
(令和7年11月号)