山本 光宏
美容外科の現場にいると、さまざまな経歴の医師に出会います。
形成外科を長く経験して美容外科に進む医師もいれば、皮膚科、外科、麻酔科、あるいはまったく別の診療科から転じてくる医師もいます。初期研修を終えて、そのまま美容外科に入る若い医師も、いまでは珍しくなくなりました。
私自身、長く形成外科と美容外科の両方に関わってきましたが、美容外科ほど入口が広く、患者さんから見ると、責任の重い領域は少ないと感じます。医師は皆同じように見えるかもしれません。しかし実際には、その医師がどこで何を学び、どのような症例を経験し、トラブルが起きたときにどこまで対応できるのかは、外からはなかなか見えません。
では、美容外科医になるために、特別な資格は必要なのでしょうか。
日本では、特定の専門医資格がなくても美容外科を行うことはできます。ただし、それは医師免許があれば無制限に美容医療を行ってよいという意味ではありません。医療広告への配慮、十分な説明、麻酔を含めた診療管理など、医師として果たすべき責任は当然あります。それでも、専門医資格が参入の必須条件ではないという点で、日本の美容医療は自由度の高い領域だと言えます。
しかし、美容医療の現場で本当に問題になるのは、資格があるかないかだけではありません。むしろ重要なのは、その医師が自分で対応できる範囲を理解し、必要なときには経験のある医師や他の診療科と連携できるかどうかです。
資格だけでは安全は守れない
一方、米国では事情が異なります。州や施設によって制度に違いはありますが、美容外科を行う医師について、形成外科などの専門研修歴や専門医資格が、日本よりも重視されやすい傾向があります。
法律上、一律に専門医でなければ美容外科を行えないわけではありません。しかし、施設の利用条件、広告表示、訴訟リスク、患者側の認識などを通じて、専門資格や研修歴が重要な判断材料になります。
日本と米国では、美容医療をめぐる制度や運用に違いがあります。ただし、この違いをもって、日本は緩く、米国は厳格であると単純に分けることはできません。問題の本質は、資格の有無そのものではなく、患者さんの安全をどのように守るかにあります。
別の診療科で得た経験が、美容医療に生かされる場面もあります。しかし、医師免許があればできるということと、十分な経験を積んだうえで安全に行えるということは、同じではありません。
患者さんの安全を守るためには、資格の有無だけでは十分ではありません。研修歴や症例経験、合併症への対応力、そして必要なときに他の医師や診療科と連携できる体制が重要になります。
見えにくい医師の経験と体制
二重手術、脂肪吸引、フェイスリフト、ヒアルロン酸注入、レーザー治療は、どれも同じような美容医療と思われがちです。しかし、必要とされる解剖の理解、手技、合併症対応、術後管理は大きく異なります。ある施術ができるからといって、別の施術も安全に行えるとは限りません。
美容医療では、結果が見た目に直接現れます。術後の腫れ、左右差、傷あと、仕上がりは、患者さんにとって大きな不安につながります。その不安に向き合う力も、美容外科医に求められます。手技だけではなく、術前の判断、十分な説明、術後の伴走まで含めて、美容外科の診療は成り立っています。
日本では、医師の経験や研修歴が、患者さんから見えにくいことがあります。学会による専門医制度はありますが、資格の有無だけで、日々の診療姿勢や合併症への備えまで判断することはできません。
現実には、広告や集患の場面で前面に出るのは、資格や研修歴よりも、症例写真、価格、患者さんの興味を引く宣伝文句であることが少なくありません。
安い、腫れにくい、短時間で終わる、切らない、自然な仕上がり。
こうした言葉は、患者さんの関心を引きやすいものです。
しかし、その背後にある医師の訓練歴、合併症への備え、術後管理の体制は、外からは見えにくいままです。
問題は、専門医資格がなくても美容医療を行えることではありません。大切なのは、患者さんの安全をどう守るかです。
安全を支えるもの
美容外科の安全を守るためには、何が必要なのでしょうか。
医療では、最終的に医師自身が判断しなければならない場面があります。美容外科も例外ではありません。だからこそ、自分の経験で安全に対応できる範囲を知っておく必要があります。
患者さんが希望していても、医学的に適切でないと考えれば、治療を勧めない判断も求められます。美容医療では、できるかどうかだけでなく、行うべきかどうかが問われます。
さらに、トラブルが起きたときに誰が対応するのか、どの診療科と連携するのかを考えておくことも重要です。説明が不十分であれば、結果が医学的に許容範囲であっても、患者さんとの間に大きなずれが生じます。
自由度の高さに伴う責任
私は地方で長く診療してきましたが、こうしたことの大切さを一層強く感じます。
都市部と比べると、患者さんが相談できる医療機関の数は限られています。患者さんは地域の中で生活しています。医師もまた、その地域で診療を続けていきます。一度引き受けた患者さんとは、その後も長く向き合うことになります。美容外科も、地域で行う医療である以上、患者さんとの関係はその場限りでは終わりません。術後に不安があれば、患者さんはまた来院します。トラブルが起きれば、他院や基幹病院との連携が必要になることもあります。説明不足や判断の甘さは、その場限りでは終わりません。
専門研修や資格には、大きな意味があると思います。専門研修を受け、一定の症例を経験し、学会や教育の場で鍛えられることには大きな意味があります。
しかし、資格だけで患者さんの安全が守られるわけでもありません。資格があっても、無理な適応を通せば危険です。資格がなくても、慎重に学び、適切に連携し、限界を知って診療している医師もいます。
自由度の高い日本の美容医療
その自由度は、医師にとっては可能性である一方、患者さんにとっては不安の要因にもなり得ます。
誰を信じればよいのか。何を基準に選べばよいのか。広告に書かれた言葉を、どこまで信じてよいのか。資格だけで、美容外科医としての適性や力量が決まるわけではありません。
しかし、資格が必須でないからこそ、日々の学び、慎重な判断、十分な説明、そして合併症が起きた際に適切に対応できる力が、これまで以上に重要になります。
次回 第4話 形成外科を経る意味 基礎力がなぜ必要なのか
形成外科で学ぶ基礎力が、美容外科の現場でなぜ重要になるのかについて考えます。
(令和8年7月号)