新津信愛病院
清水 敬三
統合失調症や双極1型障害の治療に、月1回の筋肉注射 ─ いわゆるデポ剤という選択肢がある。確実な薬物療法を継続できるこの方法は、再発リスクを減らし、患者様の生活の安定に寄与している。私はこの治療法に、ひとつの夢を重ねている。
それは、患者様が月に一度病院に来て、ほんの少しだけ病気のことを思い出し、病院を出た瞬間から、病気のことは忘れて、普通の生活を送ってほしいという夢だ。病気が人生の中心ではなく、背景の一部になるように。治療が「日常の邪魔」ではなく、「日常を支える静かな力」となるように。
確実な薬物療法を受けている患者様の多くは、誠実で、優しく、謙虚だ。幻覚や妄想も、その人の個性の一部として捉えたい。それは排除すべき症状ではなく、時にその人の世界観を映す鏡である。私は、そうした個性を全人的に尊重し、社会との接点を支える医療でありたいと思う。
精神科医療は、薬だけでは完結しない。関係性、語り、沈黙、そして希望が必要だ。患者様が「自分らしく生きる」ことを支えるのが、私たちの仕事だと信じている。
「I have a dream」キング牧師のこの言葉の背景にある歴史や人物について、私は詳しく知らない。ただ、あの演説に人を動かす力があることだけは、はっきりと感じる。夢を語ることは、現実逃避ではなく、未来への責任なのだと、あの声が教えてくれた気がする。
私の夢もまた、小さな声かもしれない。けれど、月に一度の注射のあと、静かに歩き出す患者様の背中に、そっと託されている。
川柳
月一度 背を押すだけの 医のちから
(令和8年7月号)