山本 光宏
美容外科で起きた合併症は、誰が最後まで診るのでしょうか。
美容医療では、広告や料金、華やかな症例写真が注目されがちです。しかし、その陰であまり語られないのが、合併症が起きた後の現実です。
どれほど慎重に診療しても、合併症を完全にゼロにすることはできません。感染、血腫、左右差、瘢痕、皮膚壊死、神経障害など、その頻度は高くなくても一定の割合で起こり得ます。これは美容外科だけでなく、すべての外科系診療科に共通する問題です。
本当に問われるのは、合併症そのものではありません。その患者さんを、その後誰が診るのかということです。
クリニックで起きた合併症
病院勤務であれば、多くの場合、上級医に相談し、必要に応じて他科と連携しながら対応できます。入院管理や再手術が必要になれば、病院全体で患者さんを支えることもできます。
一方、美容外科の多くはクリニックで行われており、そのような体制を備えている施設は限られています。
そのため、合併症が起きた場合には、術者自身が患者さんへ十分に説明し、適切な治療を行い、術後の経過まで継続して対応することが重要です。それは、手術を行った医師として当然の責務です。
しかし現実には、他院で美容医療を受けた患者さんが、トラブルを抱えて私のクリニックを受診されることがあります。
「手術を受けたクリニックから、こちらで処置を受けるように言われました」
そのように話される患者さんもおられます。しかし、術者から事前の連絡がなく、どのような手術を受け、何が起きているのか分からないまま受診されることもあります。
患者さんには何の落ち度もありません。それでも受け入れる側は、治療内容も術後経過も分からないまま、診断や処置を求められることになります。
合併症が起きた患者さんは、身体的な苦痛だけでなく、「この状態は治るのだろうか」「どこで診てもらえばよいのだろうか」という強い不安を抱えています。そのような中で、治療を行った医療機関から十分な説明もないまま他院の受診を勧められれば、医療そのものへの不信につながりかねません。
さらに、元の治療が自由診療であっても、その合併症について、受け入れ先の医療機関で保険診療として対応してもらうことを前提としているように感じることがあります。しかし、私がこれまで他院の合併症に対応してきた中で、治療費の負担について元の医療機関から連絡を受けたことは一度もありません。自由診療で生じた合併症への対応や費用負担を、患者さんや保険診療に委ねるような形でよいのか、疑問を感じます。
他院へ対応を依頼するのであれば、患者さんに受診先を伝えるだけでは十分ではありません。診療情報を提供し、何が起きているのか、どのような処置を依頼するのかを医師同士で共有する必要があります。さらに、治療費の負担についても患者さん任せにせず、あらかじめ整理しておくべきでしょう。
手術手技だけを学んでも足りない
さらに根本的な問題は、手術を行う医師が、合併症への対応まで十分に学んでいるかということです。
手術手技を学ぶだけでは十分ではありません。感染が起きたときにどう対応するのか。血腫が生じた場合、速やかに適切な処置を行えるのか。皮膚壊死や神経障害が疑われたときに、まず何をすべきか、そしてどの段階で専門医に紹介するのか。そこまで学んで初めて、安全に手術を行う準備ができたといえるのではないでしょうか。
自分では処置できない合併症が起こり得ることを知りながら、対応方法も連携先も決めないまま手術を行うべきではありません。
また、美容外科を開業するのであれば、自院だけですべての合併症を抱え込めると考えるべきではありません。入院や緊急手術が必要になった場合に備え、形成外科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科など、地域の医療機関との連携を、開業当初から築いておくことが重要です。
合併症が起きてから受け入れ先を探すのでは遅いのです。
修正治療の難しさ
私は形成外科と美容外科の診療に携わる中で、多くの合併症や修正手術に向き合ってきました。
美容外科の修正手術は、通常の形成外科手術以上に難しいことがあります。すでに失われた組織を元に戻すことはできません。限られた条件の中で改善を目指すしかなく、医学的には改善していても、患者さんが期待する結果に届かないこともあります。
さらに、修正治療を引き受けた時点で、患者さんの不安や期待も新たに背負うことになります。結果に満足が得られなければ、不満の矛先が現在治療している医師へ向かうことも少なくありません。
そのため、他院で生じた合併症や修正治療を引き受けることは決して容易ではありません。実際には、診察に至る前に対応を断っている医療機関も少なくありません。治療内容や術後経過が分からないうえ、通常より難しい対応が求められ、患者さんの期待も大きいからです。
本来、最初に対応すべきなのは、治療を行った医療機関です。
自院で対応できないのであれば、適切な医療機関へ依頼する。診療情報を提供し、依頼内容を明確に伝える。さらに、合併症の治療費についても患者さん任せにせず、受け入れ先と十分に協議する。そして、治療を依頼した後も、その後の経過を把握する。そこまで含めて、手術を行った医師の責任ではないでしょうか。
最後まで患者さんから逃げない
自由診療には、診療内容や価格を決める裁量があります。
自由診療で利益を得ておきながら、合併症が起きたときだけ他院や保険診療に委ねる。そのような対応が許されてよいのでしょうか。
自由診療で本当に問われるのは、手術の技術だけではありません。
合併症が起きたときに患者さんから逃げないこと。自院で対応できなければ、責任を持って適切な医療機関へつなぎ、必要な情報を共有し、治療費についても誠実に対応すること。そして、すべてを他人任せにせず、その後も患者さんに向き合い続けることです。
美容外科では、手術が成功した症例だけが評価されがちです。しかし、本当に医師としての姿勢が問われるのは、思いどおりにいかなかったときではないでしょうか。
患者さんを最後まで診る。その姿勢こそが、自由診療に携わる医師に最も求められる責任だと私は考えています。
(令和8年9月号)