橋本 謹也
平成30年12月8日深夜、改正出入国管理法案の取扱いで混乱する国会で、「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律」(成育基本法)が成立致しました。
高齢者に偏っている福祉予算を小児に振り替えて、保健・医療・福祉を統合した法律を作り、日本の子どもたちの健康を守ることを目標とした「小児保健法」を目指して活動を開始してから20数年の時期を経て、やっと成立の日を迎えることが出来ました。
少子化が徐々に進んでおります。新潟市の出生数も、平成28年から6,000人を割り込んで年々減少しております。結婚は晩婚化し、自然な妊娠出産を願っても難しく、不妊治療を行って大変な思いをしている女性の方が多い現状です。
また、子どもたちを取り囲む状況も厳しいものがあります。今年1月に千葉県野田市で起こった虐待事件は記憶に新しいところですが、警察庁の犯罪情勢の公表では、2018年に虐待疑いで児童相談所に通告した18才未満の数は8万件を超えたそうです。
発達障がいや愛着問題等も増えています。うまく対応して成長を後押ししてあげられないと、学級崩壊の原因になったり問題行為を起こしたりします。また、成長して人格障害から衝動的な事件を起こすこともあります。しかし、社会的な問題となっている割りには専門医不足もあって、何ヶ月も診察を待たなければいけません。
学校ではSNS等を利用して陰湿化した“いじめ”問題、それに引き続く自殺等が問題となっております。また、不登校の問題も根深く、簡単には解決出来ません。
ゲームやSNS等のメディアの問題から、ネット依存等も問題となっております。家族や子どもたちの話を聞くと、外で遊びたくても遊ぶ友達はおらず、結局ネットを利用したゲームを家で行い、その中では汚い言葉の応酬等がみられている現状があるようです。
さて、成育基本法は成育過程の個人の尊厳を重んじた上で、妊娠出産から成人に至るまで切れ目のない医療・保健・教育・福祉等を提供することを定めております。国・地方公共団体・保護者・医療その他の関係者は連携して必要な施策を策定し、かつ実施する責務があると規定しています。今後、この法律の成立を基に、子どもたちに関わる法律の、いわゆる縦割り行政が是正されて、連携強化が進むことを願います。また、施策を推進するにあたり予算措置が進むことも願っております。
政府は今後、成育医療等基本方針を定める義務が生じ、基本方針の公表及び評価を行うこととなります。また、基本方針の策定に関して、成育医療等協議会を設置して意見を聞くこととなり、小児科医の参加が望まれます。
さて、この法律が成立して国の責務が規定されましたが、医療関係者、特に小児科医もその責任の一端を担うこととなります。少子化や予防接種の普及、診断・治療技術等の進歩で小児医療は変化しております。今後小児科医は、子どもたちが心身の健やかな成育を達成できるために、細やかな健診による成長への関与、園医や学校医を通しての健康教育、予防接種体制の推進等等、医療だけでなく保健・教育・福祉等への関わりがより大事になってくるように思います。法案成立した今こそがスタートラインです。子どもたちの成育にどのように役立っていくのか、成育基本法の今後を注意深く見守っていきたいと思います。
(平成31年3月号)