佐藤 勇
1月13日、地域総合小児医療指導者研修会が沖縄県那覇市で開催された。
日本小児科医会では、地域に根差した小児医療のあり方を具体的に「見える化」するために地域総合小児医療認定医制度を立ち上げた。小児医療は、以前の感染症を中心とした急性期医療から、予防医学、アレルギー疾患、発達障害など地域保健、保育・学校問題にかかわる医療に変わってきている。第一線の小児科医が担うべき課題を明確化し質の担保を計ることをめざしてこの認定医制度を立ち上げた。そして、より一層他の職種とも連携が求められており、その道筋を示すことも日本小児科医会の重要な役割と考えている。
この制度が発足して5年が経過した。昨年末現在で1,159名の小児科医、小児外科医の先生方が認定資格を取られた。1年間で生涯研修単位10単位以上と地域貢献単位50単位以上、合計で年間100単位以上が必要となるが、予防接種、乳幼児検診、園医学校医活動、地域医師会活動、休日夜間診療、病児保育、行政の各種委員会活動、など細かな項目をチェックすることで自身の地域貢献活動を点検することができ、通常の小児科専門医として地域で開業している先生には難しくはない。そしてこの制度を育て、これから地域での活動を目指す中堅の勤務医などに指導助言を与えるためにも、指導者の育成が必要である。制度の発足時より5年後の指導者輩出を目指して、前述の指導者研修会を企画し毎年開催してきた。
指導者研修会は、毎回50名から80名程度の地域総合小児医療の暫定資格認定者を対象として、従来の座学の他に、毎回、あるテーマについて、参加型のアクティブラーニングを設定している。すでに各大学医学部の教育では、私たちが受けていたような講義形式は減り、テレビ番組の「ドクターG」のような、受講者が主体的に関わる形式が増えている。その手法についても、研修の中に取り入れて参加者に実践していただいている。個人的な感想としては、ディスカッションの中でおこなわれるアイスブレイクが、この形に入り込む鍵となると感じている。これまで、乳幼児健診や医療機関向けの虐待対応プログラムBEAMSなど、小児医学には入らない分野のテーマで実施してきた。
初回資格認定申請者が今年度で5年間の認定期間を終了し、来年度の申請時に指導医の資格を申請できることになる。そういった節目の年でもあり、11月に都内で実施した研修会では、昨年制定された、いわゆる成育基本法が12月から施行されることもあり、前日本小児科学会会長の五十嵐隆先生に「すこやか親子21」の達成度をもとに、成育基本法の目指すところをお話しいただいた。今年度最後となった1月の研修会は、その実践編として、指導者研修会を初めて地方で開催した。しかもあえて沖縄である。テーマは「虐待、貧困 そして 禁煙」
沖縄は、子どもの貧困率が全国13.9%(7人に1人)にたいして29.9%(3人に1人)、とりわけ一人親家庭の貧困率は68.9%であり、1985年以降、離婚率は全国1位を続けている。その離婚原因の1位が元夫の生活力が無い(44.1%)となっている。その結果、虐待の発生件数は多く、新潟をはじめとして全国的には、主たる虐待者は実母が多い(47% 2017)のに対し実父が多い(55% 2017)という特徴を持つ。
研修会では、沖縄で虐待対応を行っている小児科医、現地の児童相談所長、子どもの貧困に関わり続け、貧困の再生産を目の当たりに見て、その結果、若年妊娠出産を支援する活動に行き着いた民間団体代表などを招き、沖縄の突出した現実を学んだ。
一般に福祉が充実すると離婚率が高くなると言われている。以前このコーナーで筆者の息子家族がヨーロッパを放浪した話を書いたが、彼らが最初にホームステイしたのはデンマークだった。消費税25%により医療と教育が保証されると、実際に離婚率は50%に達していた。居候してインタビューした女性の子どもたちは、自立している元妻と元夫の家で交互にすごしていた。
沖縄はこれとは真逆の現実だった。生活できないから離婚する。貧困率も高く、虐待件数も多い。しかし、若年妊娠は多く合計特殊出産率は全国トップを維持している。
内閣府のホームページでは、掲載する都道府県別合計特殊出産率の棒グラフで、沖縄県のバーに花まるマークのように「最高」と書いた印をつけている。
(令和2年2月号)