横田 樹也
消防庁消防白書によると、平成22年以降、全国の救急出動件数と、それに伴う救急搬送人員は増加を続けています。年齢区分救急搬送人数でみると、「若年者」と比較し「高齢者」の増加が著しく、これは高齢者の人口増だけではなく、救急搬送自体が増加していることが要因です。救急搬送の6割以上を占める「急病」についてみても、「若年者」は横ばいである一方、「高齢者」は増加傾向にあり、その「高齢者」の搬送理由を傷病程度別にみると、「死亡」「重症」に比べ、「中等症」「軽症」が増加していることが実情で、この原因は、在宅独居の高齢者が病院への移動手段がなく救急車を呼ぶケースがあるほか、介護施設入居中の高齢者でも、職員配置が少ない夜間に病状増悪した場合、施設で病院へ搬送できず、救急車を依頼することがあげられています。一方、最近、人生の最終段階にある高齢者が急変時に、到着した救急隊が行う救命処置や搬送された救急病院での延命治療を、「本人の希望した治療ではない」という理由で、家族が拒むケースが散見され、このようなことも救急現場での課題の一つとなっています。
近年、新潟県内で最も救急体制が充実していると考えられている新潟市を中心とする新潟医療圏においても、救急体制の維持が困難になりつつあります。特に二次輪番病院に関しては、各病院での医師の減少と高齢化が出務体制に影響していることに加え、専門分化や各病院の機能から当番病院での対応が困難な場合もあり、結果、三次救急病院にも疲弊に繋がっています。今後、救急医療対応が必要な高齢者が増加することで、新潟市の救急の提供体制の継続がいっそう難しくなってくることが予想されます。
新潟市はこれまでも救急医療に対しては、新潟市医療計画の中の基本方針として取り組んできましたが、昨年4月、新たに、新潟市在宅医療・介護連携推進協議会の中に、在宅医療・救急医療連携ワーキンググループを立ち上げました。これは高齢者の救急搬送が増加している中で、普段から、地域の医療・介護の関係者が、高齢者本人や家族と、治療や過ごし方に関する希望について話し合い、それを関係者で共有するとともに、本人の医療情報や社会資源情報、ADLのみならず、話し合った内容を「救急医療連携シート」という形で記録に残し、このシートを救急隊や救急病院とも共有することで、いざという時に、円滑で適切な救急対応ができるような環境を整備することを目的に協議を行う場です。
令和元年度は4回のワーキンググループを開催し、新潟市内の介護施設や救急隊、救急病院へヒアリングやアンケート調査により実態調査を行うとともに、高齢者について、関係者が情報共有を可能とするため、病状やADLに加え今後の治療や過ごし方に関する希望について、どのように話し合いを行うか、そして聞き取った情報をどのような形で「救急医療連携シート」に残すか検討を行なっています。また、特定の地域をモデル地区として、その地域の医療、介護関係者との協議も開始しました。今後、新潟市内に在住する高齢者の救急医療について「救急医療連携シート」が活用されることで、関係者間での情報共有システムが構築され、結果として、高齢者の病状急変時に、安心して自分が望む医療を受けることのできる救急体制が持続的に維持できるのではないかと考えています。
(令和2年3月号)