新潟南病院 上原 彰史
7月18日、19日に福岡市で心臓リハビリテーション学会学術集会が開催されました。昨年のセッションには存在しない心臓リハビリとは一見無関係のような“フレイル”“サルコペニア”という言葉が、なんと今年はシンポジウムのテーマにまで格上げされていました。その会場に行くと座席は全て埋まり立ち見だけでは収まらず、座長が許可したステージに迫らんばかりのジベタリアン、場外モニターによるパブリックビューイングと非常に多くの聴衆で溢れていました。これには、多くの学会会員が心臓病を並存したフレイルやサルコペニアの高齢患者に対し、どのようにリハビリを行うべきか非常に困っていることの表れ、と考えざるを得ませんでした。
当院では2013年4月より買い物歩行、食事歩行、トイレ歩行が危うくなった、身体的フレイル高齢入院患者の独歩退院をめざす病院づくり『独歩プロジェクト(Discharge Of elderly Patients from hosPital On the basis of their independent gait、略してDOPPO)』に取り組んでいます。プロジェクト開始後2年3か月の観察研究結果を以下に述べます。対象はSPPB(short physical performance battery)値12点未満の身体的フレイルを示し、同プロジェクトに参加し退院できた65歳以上の入院患者連続88名です。平均年齢は81.9歳、男女比は男性43人女性45人で、リハビリ期間は30.7日、リハビリ単位は93.3単位でした。リハビリ終了時は開始前と比較し、10m歩行速度は0.8m/sが0.99m/sに、SPPB値は7.0点が9.5点に有意に改善し、その結果を受け22人(25%)で12点満点を獲得しました。54名がリハビリ終了時に6分間歩行検査が可能となり27名が歩行距離300mを達成しました。当院では、6分間歩行距離300m達成を“独歩退院”と定義しています。なぜ300mかというと、80歳代でボランティアとして測定検査に参加できる地域住民の平均は約500mですが当院に入院したフレイル患者には夢物語です。しかし300m歩ければバス停に着きそこからバスに乗れば街に買い物に行ける、そのネットワークを発達させようという都市づくり(コンパクトシティという)を参考にした300mであれば、現実的で楽しみな目標です。つまり27名もの身体的フレイル患者が買い物に行ける歩行能力を獲得したことになります。
この取り組みは身体的フレイルの終末期状態に陥らんとしている患者の救済に一役買っていると思っています。しかし我々は、身体リハビリ依頼患者の85%はもともと寝たきりやそれに近い、全身状態不良、リハビリ意欲がない、コミュニケーション困難な認知症などで独歩プロジェクトに入れられず、プロジェクトに参加できたのは15%に過ぎない、という現実にも直面しています。今後さらに『独歩プロジェクト』を広め、新潟市住民の身体的フレイル対策に関わっていきたいと思います。
(平成27年10月号)