宮尾 益尚
洒落た扉を開けると「いらっしゃいませ」、低音の渋い声が迎えてくれる。声優?俳優?と思いきや、小柄な満面の笑みを浮かべたマスターがカウンターの中に。ここは古町通りと西堀通りの間の小路に1984年から店を構えるトラッドバーである。マスターの高山氏は、1964年開業のバーTETEで13年間修行を積み、その後独立、今年で開店27年目を迎えるアガト(ACHT:ドイツ語で“8”の意味。古町8番町であるが故。)のベテランバーテンダー。
席に案内され椅子に座った瞬間からほっとする居心地の良さ。目の前に並ぶ約350種類の酒を見るとちょっと緊張もするが、私の様な大酒飲みなのに酒オンチでも「こんな感じの酒が飲みたい」とイメージを伝えるだけで、「了解しました」の対応。しばらくすると「おー!これこれ!」と反応したくなる酒が目の前に。プロである。現在のチーフバーテンダーである武田氏も凄腕の上、上品な話術を以て接客してくれる。師匠から学び取ったスタイルであろう。
しかし今日までの道程は決して順風満帆ではなかったとの事。開店5年目で上階からの貰い水で大洪水、全面改装、借金、高金利で四苦八苦。しかし、改装前の20席を13席にした時、「Barはこれだ!」と感じたらしい。お客さんとの「間」なのかも知れない。
もう一つの節目は、師匠であるTETE山崎マスターの旅立ち。亡くなる少し前、病室で「TETEを頼む!」という依頼。悩んだ結果、愛着のある自分を育ててくれた店を受け継ぐ決心をした。
アガトで修行し卒業していったバーテンダーは13名。全員を知らないが、皆優秀な教え子達。そのひとり、山崎マスターからすれば孫弟子にあたる素晴らしいバーテンダーが現在TETEを継いで頑張っている。
また日本バーテンダー協会新潟県本部理事長を1991年から1997年まで務め、1992年には第20回全国バーテンダー技能競技会実行委員長として、後進の育成にも励んでいる高山マスターに「すごい事ですね」と聞くと、「親父が至らないと子供は育つ。反面教師の典型です。従業員に恵まれ幸せです」との答え。子供達へ送る言葉は「己で切り開け!」だそうだ。
「すべてはお客様のために」の下、今晩もアガトで至福のひとときを過ごしているお客さんがいる事だろう。どうぞ魅惑の扉を開いてみて下さい。
住所 | 新潟市中央区西堀通8-1511 石丸ビル1F |
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電話 | 025-223-1077 |
(平成23年4月号)