浅井 忍
万代そばや浜浦農園そばコーナーという呼び名もあるようだが、万代バスセンター立ち喰いコーナーの方がしっくりくる。ここでは何をおいてもカレーライスを食べることにしている。注文品を受け取るカウンターは、カレーとカレー以外に分かれていて、客は整然と並ぶ。他の客との距離を程よくとり、注文品を持って移動する客や食べ終わった食器を返却口に返す客が通りやすいように、並んでいる客は少し動くのだ。なんという行儀のよい協調性のある客たちだなどと、その列のなかにいながら思っていると、厨房では次々と注文品が作られ列はどんどん前に進んだ。
ABS樹脂製の食器に盛られたカレーライスを受け取ったら、カウンターにおいてある水の入ったコップを反対の手に持って、前に仕切りのあるカウンター席の空いているところに陣取る。ウスターソースをかけたいなら、注文品受け渡し口の左にあるウスターソースを持ってくるなり、食器を持って行ってかけるなりする。カレーライスはよく言われる昔懐かしい味である。最近のテレビコマーシャルの手の混んだカレーとは似ても似つかない、カレー粉、小麦粉、玉ねぎ、人参、豚肉のシンプルなカレーである。
こういうところで知人に会うのは、気恥ずかしい。人は他人に食べるところを見られたくないという心理が働くらしい。それは野生の本能であると、どこかで読んだような気がする。こんなところで食べているのかという顔をされるのは、お互い様だけれど、何ともバツが悪い。それでつい周りを気にしながらこそこそ食べていると、多分同じようなことを考えている客と目が合ったりする。
ある日、福神漬けをたっぷり食べたくなり、「福神漬けを大盛りにしてくれますか」とお願いしたところ、小太りの陽気そうなオバさんが、「大盛りはダメだけれど、多めなら・・・」とトング3つまみの福神漬けをカレーにのせてくれた。ほかの客の視線を気にしながら、オバさんの機転の利いた対応に感激し、水をガブガブ飲んで平らげた。
カレーライスには普通とミニがあって、ミニといってもかなり量が多いので、もっぱら370円のミニにしている。食べ始めると、ものの数分で食べ終ってしまい、コップの水を飲み干して、満足しながら次の目的地へ時間ぎりぎりで飛び込むわけだ。
ここのカレーライスはかなり人気があって、数年前に「バスセンターのカレー」と名うって販売された。もちろんこの店でも売っているが、駅や飛行場などの目立つところに箱が山積みされている。一箱に1.5人前のカレーが入っていて525円と少し割高だ。発売されて間もないころに勇んで買って家で食べたものの、さっぱりだった。バスセンターの一角で、ディーゼルエンジンの吐き出す排気ガスを吸い込みながら、立ったままで、時間に追い立てられ周りを気にしながら食べると、ここのカレーライスは本領を発揮する。
万代バスセンター立ち喰いコーナー
住所 | 新潟市中央区万代1-6-1 バスセンタービル |
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営業時間 | 8時〜19時 |
(平成23年11月号)