永井 明彦
明けましておめでとうございます。令和初のお正月を如何お過ごしでしょうか。新潟市医師会では一昨年、藤田一隆先生が3期目の会長に選出された就任の挨拶で「原点回帰」のスローガンを挙げられ、1年半が過ぎようとしています。医師会の執行部も「医師会綱領」に立ち返って初心を忘れず、本年も活動していきたいと考えております。
さて、新元号が令和になり、何か明るい時代が到来したような錯覚に捕われますが、経済状況と同じく医療、介護、福祉を取り巻く状況は厳しさを増しています。その要因として根底に横たわるのは未曾有の“少子超高齢化”です。世界に冠たる国民皆保険制度を整備した日本の高齢化は、当然の帰結ですが、100歳以上のセンテナリアン(百寿者)が7万人を超えたといっても、人口の僅か0.055%に過ぎません。国民の1%が百寿者なら未だしも、政府は「人生100年時代」という幻想を振りまき、年金を宛てにせず、働き続けて自己責任で百寿者を目指せと国民の尻を叩き、社会保障費を削減しようとする意図を隠そうともしません。
一方、我が国の出生数は昨年初めて90万人を下回って、改元効果で増加するとの期待を裏切り、昭和22年の3分の1以下になりました。合計特殊出生率は1.42まで低下し、少子化のペースが加速しています。少子化は国が長らく手を拱いてきた結果の人災に他なりません。少子化は先進国共通の課題ですが、欧米諸国は子育て環境を整え、その進行を食い止めています。例えば、合計特殊出生率が1.96のフランスでは、3歳から義務教育が行われ、社会が家庭の子育てを助けています。子育ては家庭でするもの、小さい子には母親が必要だという考えがまだ幅を利かせている日本とは大違いです。
国は子育てを支援するどころか、待機児童問題を解決できず、外国では給付型が主流の奨学金を貸与型教育ローンのまま放置し、高等教育機関に対する公的支出は先進国中最下位です。更に子育て世代の負担が大きい消費税を、財務省の意のままに増税した挙げ句、消費増税分は社会保障費に充当されずに法人税減税の穴埋めに使われ、企業は内部留保を溜め込み、トリクルダウンは起きず、賃金上昇率はOECD加盟国中最低で唯一マイナスです。非正規雇用に喘ぐ若者の非婚率は増加する一方で、少子化の進行に歯止めがかかりません。
日銀が異次元の金融緩和を行っても円安を誘導し、官製相場の株価が上がるだけで、余剰資金は借金返済や防衛費に消え、総需要喚起やデフレ脱却に繋がりません。国の財政収支を議論する際、与野党ともプライマリーバランスを重視する財政健全化の呪縛から逃れられません。しかし、米国では「民主社会主義」を標榜する民主党左派のサンダースやC.コルテスを中心に、MMT(現代貨幣理論)に従って大胆に減税し、財政赤字を容認して社会的インフラ、医療・介護、教育、基礎的な科学研究の分野に積極的に財政出動し、社会政策の転換を図る勢力が台頭しています。MMTは、何でも民営化、自己責任という新自由主義的発想とは真逆の反緊縮財政論で、日本の異次元金融緩和が財政破綻を来たさないと、財務省が強調するのと同様にデフォルトやハイパーインフレのリスクは殆どありません。少子化の克服には移民の受け入れ、AIやロボットの活用も必要ですが、資産課税や累進課税で所得格差を是正し、大幅な減税で実質賃金を増やして需要を喚起することが、デフレを脱却し、少子化を解決する根本的な方策になるように思います。
藤田会長の下、今年も執行部は一丸となって医師会活動に邁進したいと思います。会員の先生方の本年、子年のご健勝・ご多幸・ご発展をお祈り申し上げ、年頭のご挨拶といたします。
(令和2年1月号)