高橋 美徳
冬が来ると鍋料理が恋しくなる。グツグツ煮えた土鍋を家族で囲むのは嬉しいし、職場の飲み会で食べたことのない鍋料理に出会えるのも楽しい。食材の出汁を吸った〆の炭水化物も愉しみだ。我が家の土鍋は5人用の9号土鍋だが、その他にも定番のステンレス多層鍋、タジン鍋、圧力鍋、保温調理鍋など沢山の鍋がある。中でもハマったのがダッチオーブンだ。初めて手に入れた米国ロッヂ社12インチキャンプダッチオーブンは内径30センチ、重さ8.4キロ、鉄肌むき出しの鍋は底に脚が3本伸びており、台所での使用には向かない。しかしアウトドアでは無類の強さを発揮し、高い蓄熱性で豪快な丸鶏料理や野菜丸ごと蒸し焼き、ピザまで作ることができる。重い蓋は食材の水分・油分を閉じ込め、無水調理、無油調理を可能にし、高い縁のついた重たい蓋は熾を乗せて上からの加熱ができるようになっている。使いこんで油が馴染めば焦げ付きにくくなるが、購入後の慣らしが必須で使用後の手入れを怠ると、慣らしのやり直しとなる。
多機能で無敵に思えるダッチオーブンだが、その重さ、メンテナンスの面倒さ、汁物を長く入れておくと黒くなってしまうことなど欠点も多い。琺瑯をかけて鉄鍋の管理を容易に、カラフルでお洒落に台所で普段使いできるようにしたフランスのル・クルーゼ社やストウブ社の鍋も高価ではあるが良い道具だ。
新潟の燕・三条地区も鉄鍋に関して逸品を作り出している。アウトドアメーカーとして有名なユニフレームの厚い黒皮鉄板を使ったダッチオーブンは精密で密閉性が高く、洗剤も使えて鋳物のように割れてしまう心配のない鍋だ。琺瑯鍋では精密機械部品で培った鋳物技術を用いて薄く軽くし、短時間で鍋内温度が上がるユニロイがある。材質にステンレスを用いて錆びにくく、上蓋の形状を工夫して優れた気密性と蒸気対流を起こさせるリロンデルは、NHKで紹介されたこともあって在庫は完売で7ヶ月待ちの状態だ。名古屋からはご飯を炊く鋳鉄製鍋として注目されたバーミキュラが、IHと側面アルミヒーターを使ったポットヒーターとの組み合わせで、高価にもかかわらず売れ行き順調のようだ。
「水の惑星」である地球だが、鉄は地球重量の約30%を占めており「鉄の惑星」ともいえるだろう。全元素中最も安定している鉄は人類文明の進歩に欠かせない素材であるとともに、ヘモグロビンに代表される鉄タンパク質の材料として、酸素をエネルギー源とする生命の維持に不可欠な金属だ。鉄鍋料理で鉄分補給をしながら美味しい生活を続けたいと思う。
(平成31年1月号)