風間 隆
健康のため往復20分ほどの距離ではあるが、ほぼ毎日徒歩で通勤している。平成22年の夏はとにかく暑く、やめようかと何度も思った。テレビや新聞では、連日のように各地の記録的な猛暑と熱中症搬送者数を報じていた。その1ヶ月ほど前にはゲリラ雷雨と土石流で多大の被害があったばかりであった。こういった現象は地球温暖化の兆候が鮮明になってきたことかと心配になった。COP15関連の報道で、日本の企業や市民がCO2削減の努力をしているのに、CO2排出大国である中国やアメリカが削減に消極的であることを知り腹立たしく思った。何事も悲観的に考えてしまう私は、人類滅亡のシナリオまで妄想してしまった。某放送局で盛んに訴えていた「明日のエコでは遅すぎる」という言葉がとても説得力のあるものに思えた。微力ながら我が家もCO2削減に少しでも役立つようにと、数年前に深夜電力を利用したエコキュートを導入していた。さらに10月からは太陽光発電パネルを設置し、家の外壁には遮熱塗装を施した。しかし、この本を読んで地球温暖化に対する考えが変わった。
前半では、地球が温暖化しているという報告の信憑性、地球の気温を決定する因子などについて述べられており、その中でCO2上昇が温暖化の原因にはなり得ないとはっきり述べている。地球の気温上昇は1800年頃から始まっているのは事実であるが、それは「気候変動に関する政府間パネル」IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)が言うようなCO2上昇のためではないというのである。さらに、地球の平均気温は2000年頃からむしろ低下傾向にあり、寒冷化を心配する研究者さえ存在するようである。また、地球温暖化に伴って起こる現象とされている、海水面上昇、山火事の件数、ハリケーンや台風の数や規模は、実際にはあまり変化していないというのである。これらの事実を裏付けるデータが多数のグラフで示されている。これが事実であれば、私が生きている間に私の「恐怖のシナリオ」の妄想が現実のものなることはないだろう。地球の気温の変化には、ミランコビッチ・サイクル、太陽活動、黒点の増減、宇宙線、地磁気、その他いくつもの要因が複雑に絡んでいる。それらを解析して地球気温の今後の変化を予想することは、現在の科学力では不可能で、どうなるかは分からないということのようだ。
IPCCはCO2削減において指導的立場にある組織であるが、著者は繰り返しこの組織を非難している。その業績によりノーベル平和賞をも受賞した、このIPCCとはどういう組織なのか。著者によれば「そこに参加している研究者はボランティアであり、学術研究連合や国際学会とは性格が全く異なる。また、独自の調査研究は実施せず、既存の研究成果に基づいて合意を形成し、報告書を作成したということになっている。政策立案者向けに作成された報告書にすぎず、学術論文のような厳密な審査を経たものではない。」「その正体はいかがわしいもの」というのである。おそらくほとんどのひとびとは、CO2による地球温暖化は、関連する学術団体の権威といわれる研究者が証明したゆるぎない真実であると信じているのであろうが、事実は違っていたのである。
IPCCの上層部が絡んだクライメートゲート事件と呼ばれる気温データ捏造事件には驚いた。IPCCが発表した過去1,000年間の地球気温の変化のグラフで、その形から「ホッケー・スティック」と呼ばれるものがある。CO2温暖化説の最も重要な根拠であるとされていたこのデータが、まったくのデタラメの捏造だったのである。その事実は、それに関わった研究者間でやりとりしたメールが流出したことで、2009年に明るみに出た。欧米諸国ではマスコミにより大々的に取り上げられたが、日本ではほとんど取り上げられなかった。どうしてこれが報道されないのか。我が国のマスメディアの報道に偏りがあるとの多くの指摘があるが、明らかにこれはそういった例のひとつであろう。これだけのスキャンダルが発覚し諸外国では大騒動になったのに、当時の鳩山首相はCOP15でCO2の大幅な削減目標を掲げ、物笑いの種になったということらしい。無能な政治指導者、相手の揚げ足取りが本職かと思いたくなるようなレベルが低い政治、元気のない経済など、日本の将来はほんとうに大丈夫なのかと、地球温暖化よりもこちらの方が心配になってしまう。
さらに驚いたのは、「IPCC議長は温室ガス排出権取引で莫大な利益を得ている銀行の顧問を務めているだけでなく、この取引で多国籍企業とエネルギー業界が生み出す資金を、議長自身が理事長・所長を務める“エネルギー資源研究所”に振り込ませていた」というのである。マスコミの記事や番組により地球温暖化の恐怖心を植え付けられ、さらにマスコミの「地球にやさしい」などの言葉で愛国心ならぬ愛地球心をくすぐられ、結果として私たちはこういった企業の金儲けの手助けしているだけなのかもしれない。そういえば某放送局の「明日のエコでは遅すぎる」という言葉は最近きかなくなったような気がする。
後半はヒートアイランド現象、CO2への誤解により起こっている自然・環境破壊、そしてより効率の良い発電システムについて述べられている。
ヒートアイランド現象はマスメディアでも取り上げられる機会が多い。この大都市型過熱現象は局地的な過熱現象であり地球温暖化とは区別して考えなくてはならない。このヒートアイランド現象の最大の原因はエアコンの室外機や自動車からの膨大な排熱である。日本やアメリカのデータによれば、都市部では気温は直線的に上昇しているのに対し、人口が少ない地域では気温の変化がないようだ。昔から続けて気象データを取っている場所はどうしても現在では都市やその近郊になっているところが多い。ヒートアイランド現象により生じた多くの都市の気温上昇を拾っていることも地球の平均気温が上昇しているというデータを生む要因であるとも述べている。
日本ではCO2を出さないということで原子力発電が推進されているが、エネルギー効率がよくない。従来型火力発電で45%、欧米で主流であるコンバインドサイクルで60%、PEM型家庭用燃料電池(エネファーム)で最大80%であるのに対し、原子力発電では30%である。エネルギー効率が良いほど排熱が少なくなる。原子力発電では発電量の2倍の熱量を海に捨てなければならないことになる。原発施設は主要消費地である都市から離れているので、都市のヒートアイランド現象にはかかわらないが、遠隔地への送電による電力ロスで効率がさらに悪くなる。さらに、大量の温排水によって原発施設付近の海水温が上昇し環境破壊の原因になる。また、放射性廃棄物処理も大きな問題である。原発施設の建築費はというと、同程度の発電能力を持つコンバインドサイクル施設の4倍もかかる。こんなものを世界にも売り出そうとする日本の政治家を強く非難している。
我が家も使っているエコキュートのことも述べられている。電力需要には、日中に非常に高くなり、深夜には低くなるという日内変動がある。安全性の面からも原子力発電では発電量を一定に保つ必要があり、この日内変動に対応できない。どうしても深夜に余ってしまう電力をってもらう必要がある。苦肉の策が、価格を大幅に下げることで深夜電力を使ってもらうことであり、そのひとつがエコキュートなのである。
我が家でも、エコキュートを導入してからの光熱費はかなり減少して家内が喜んでいる。10月に太陽光発電パネルを導入した際、電力消費量をみることができるモニターも設置がされた。どれだけ発電されたか毎日見るのが楽しみであり、日課になった。驚いたのは、深夜の電力使用量の多いことである。我が家の場合、お湯は風呂と食器洗浄機に利用する程度である。さらに、驚いたことに旅行で1週間家を空けていたときにも、保温のためなのか、深夜電力使用量はかなりなものであった。光熱費が安くなったのはよいが、お湯は必要なときに沸かして利用するシステム方が、エネルギーの無駄がなくてよいのではないかという疑問がわいた。ある調査によれば、エコキュートは、実際に使用している家庭の9割近くが省エネ設定にしていないため、従来型のガス給湯器と比べると省エネ効果がないか、むしろエネルギー消費量が増えているらしい。著者は家庭用としてもエネファームを推奨しているが、価格の問題が大きく、さらに現時点では新潟では利用不可能らしい。著者の言い分だけを読んでいると、原子力発電は他の発電システムと比べるとあまりに欠点だらけなので、ほんとうかどうか原子力発電を擁護する側の書籍も読みたくなるほどである。
CO2が地球温暖化の原因であるという間違いがもたらす弊害も述べられている。砂漠化、サンゴの白化現象、動植物の減少などもCO2増加や温暖化が原因であると誤解され、その結果として真の原因の究明と解決を怠ることになり、これらの自然・環境破壊が進んでしまう問題を指摘している。バイオ燃料の原料となる作物の生産のために、熱帯雨林や樹木を伐採することは甚大な自然破壊である。また、トウモロコシなどの食料をバイオ燃料生産に利用し、食糧価格上昇という大問題の原因となっているのは周知の事実である。
この本では、特定の企業や人物を実名で非難しているため、読んでいてあまり気持ちがよくない部分がある。また、表現にもあまり好きになれない部分もある。しかし、著者がいうように、私たちは企業のコマーシャル、インターネットの特定サイト上の記述、不勉強なマスメディアの報道を鵜呑みにして、「炭酸ガス教」に踊らされているのかもしれない。
『二酸化炭素温暖化説の崩壊』
著者 | 広瀬 隆 |
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出版社 | 集英社新書 |
価格 | 本体700円(税別) |
(平成23年1月号)