勝井 丈美
本のタイトルはイギリスの作家ジョージ・オーウェルが1949年に刊行した怖い近未来小説『1984年』からヒントを得たものだろう。Qが不気味さをかもし出している。BOOK1は1か月で読んだがBOOK2は2日で読んだ。BOOK3にいたっては、途中で飽きて中断したせいで3か月かかった。
どんな小説かと聞かれれば、恋愛小説であってファンタジックなサスペンスであって、カルトを解剖する意図をもっていて、「出自の不確実」が「人の生き様」に及ぼす影響についての深い考察を潜ませてあって……と多くの要素が複雑にからんでいる小説と答えるだろう。
あるカルト集団をモデルにしたひとつの大きな筋がある。さらに男(天吾)の筋と女(青豆)の筋の.つの筋が次第にひとつに結ばれていく巧妙なストーリー展開だ。
この小説で重要な位置を占めているファンタジックな部分に関しては、「素数の謎・リーマン予想」が暗示する「空間にはところどころすき間がある」を著者は知っていて書いたのではないか、と私は秘かに思っている。内表紙と目次の間にひっそりとはさまれてる一文「ここは見世物の世界 何から何までつくりもの でも私を信じてくれたなら すべてが本物になる」が妙に生々しく、ドキリとする。
男(天吾)が昏睡状態の父に向って、自身の幼少期から現在までの父との確執の日々を、延々と物語る章は感動する。物語ることにより天吾の父に対する認知が変容し、再認知化されていく。そして天吾自身が深く癒されていくくだりは、さすが村上春樹だと思わせる。
本の発売までその内容が一切公表されなかった理由を、話題性を作るセールス戦略と受けとる人もいるが、私はそうではないと思う。本当の理由はBOOK2の読後にわかる。
これだけの『1Q84』を世に出した著者はただものではない。ノーベル賞候補と噂されるのもうなずける。
『1Q84』BOOK 1、2、3
著者 | 広瀬 隆 |
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出版社 | 新潮社 |
価格 | BOOK 1、2 本体1,800円(税別) |
BOOK 3 本体1,900円(税別) |
(平成23年2月号)