中村 茂樹
私事で恐縮ですが私は日頃、剣道を第二の人生の伴侶としており、稽古に励みながら広く仲間たちとの交流や出会いを楽しんでいます。「交剣知愛」と、この道で言います。今回は、年内発売予定の本をご紹介させていただきます。映画の予告篇のようなものとお考えください。
さる3月に県剣連主催の講習会が開かれ、今回の特別講師は剣道界でその名を知らない人のない岩立三郎 範士8段(千葉県)でした。範士が講話でかなりの時間を割いて、ゲラ刷りを片手に、自ら音読したのがこの本です。「剣道の詩集というのは、ワシも見たことがない。読むとどの詩にもオチがあるんだなー…作者はご当地 新潟県妙高市の平井(ペンネーム国見)修二7段です。皆さんはこの先生を知っていましたか」
審査Ⅰ
面紐を結ぶときに
「来なければよかった」と思った
その時すでに
手を叩いて喜ぶ貧乏神がいた
わかるーっ!剣道の昇段審査は、何十年間の努力をわずか1分間で評価される非情なものです。さらに7段審査の合格率は10−15%、最高位の8段審査に至っては1%未満で「日本一厳しい試験」と言われ、過去にNHKの特番が組まれたほどです。手ごわそうな相手やひとクセもふたクセもある相手に、恐れや迷いを断ち切った面を堂々と打てるか、そこが試されます。
まっすぐに
まっすぐ ただまっすぐに打てばよい
迷わずに打てばよい 面に行けばよい
一番単純な難問
五十年も竹刀を握っているのに
(…後略)
「一番単純な難問」これを私は素直になるということと、自分流に解釈しました。打ちたい、勝ちたいという欲が手元の1mmの狂いを生じ、それが剣先の10cmの狂いとなり、瞬時の勝敗を分けます。日常生活では、打ったり打たれたりすることはありません。しかし何十年も毎日を生きているのに、正直や素直になれないで、私たちは過ちを繰り返しているのかもしれません。
5月の連休で赤倉へ行った帰りに、私は友人が教えてくれた電話番号を頼りに著者と連絡を取り、妙高市(旧 新井市)のご自宅を訪ねました。私にとって新井は、28年前に外科3年生として半年間出張させて頂いた思い出の地です。辛いだけの外科修行が、良きオーベンに恵まれたお蔭で、楽しいやりがいのある仕事になった人生転換の地です。ふたたび訪れた頸南の地で、著者は気さくにご自宅の書斎へ私を迎えて下さり、初対面とは思えないほど剣道と文学の話に花が咲きました。
平易で明快な言葉使いと、底辺を流れる凡人への優しい目線とは、もと小学校校長というご経歴のなせるわざでしょう。剣道を知らない人でも心を洗われる、目から鱗の1冊です(44篇の詩を掲載)。
『剣道詩集』(仮題、年内発売予定)
著者 | 国見修二 著 |
---|---|
出版社 | 体育とスポーツ出版社 |
定価 | 1,500円位(予定) |
申込予約 | 中村まで(pncjeff2@if-n.ne.jp) |
著者紹介
1954年新潟県西蒲原郡潟東村(現新潟市)生まれ、妙高市在住。過去に谷川俊太郎や加藤登紀子とのコラボを行い、2015−2016年には新潟日報に「越後郷愁のはさ木」を連載。剣道7段、旅行と渓流釣りが趣味。
アドレス k.shuji@snow.plala.or.jp
(平成28年8月号)